| あの日─
数十分後にはペンタゴンに墜落する事となるその機内の中からは、 沢山の電波が飛ばされたのだという。
闘い、 闘った末。
望みを絶たれた乗客が手に取った携帯電話。
絶望と恐怖の中で彼らが発したのは。
暴力の根元を絶てとの大統領への怒りのメッセージではなく。
馬小屋で生まれた彼への祈りの言葉でもなく。
まして宗教が生むひずみを語るうんちくでもなく。
もっと、シンプルなものだった。
─I love you.
私はそれを、 「ふーん」なんつって聴いていたように思う。
或いは美談のひとつとして小説のネタにでもしようかなんて考えていたかもしれない。
“I love you”
その言葉を、 例えばチュッと交わすキスや情熱的な夜と同義語に感じられることは。 幸せな事なんかじゃないかと、今は思う。
“I love you”
愛の表現として、 +の表現として。 照れながらもその言葉を想い伝えるなんて。 きっとその二人はとても幸せなんじゃないかと、今は思う。
“I love you”
時と共に人は変わってゆく。
そしてひとつ、 気付きゆく今。
“I love you”
誰かと過ごした空間、時間、記憶。 味も匂いも肌触りも、笑顔も泣き顔も真剣な表情も。 それが“時”となり。
時が人を変える。
“I love you”
あなたという時が、 私にもたらした変化のひとつがこれなんです。
“I love you”
こんなに切ない言葉はないなぁって思う今。
“I love you”
怒りでも祈りでもうんちくでもなかったんだよね。 私があなたに伝えるべきだった言葉は。
“I love you”
これだけだったんだよ。
“I love you”
もっと言えたらよかったのにね。
“I love you”
私達の翼が共に飛ぶことはなくなり、 色んな事があって─
“そして” “だから” “でも” “やっぱり” “これからも”
言葉にはならない。
and,
and I love you.
and I love you.
fin.
(携帯)
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