ビアンエッセイ♪

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■22306 / inTopicNo.41)  すこしづつ…U-38
  
□投稿者/ 桃子 一般♪(21回)-(2018/07/20(Fri) 14:14:25)
    翌日 コウちゃんは 出かける時より 日焼けして帰ってきた。

    「泳いだの?」

    「ううん…泳ぐには まだ早くて…足だけ(笑) 日焼け止め塗ったんですけどね…」

    「なんか…ちょっとワイルドになった?(笑) 来週には あっちこっちで噂になってたりして…(笑)
     で!今日のお店…予約は7時なんだけど…その前に『駅裏』に寄ることになったから…
     コウちゃん 汗流したら すぐ出発できる?」

    「了解です」


    コウちゃんが浴室に向かったのを確認して MadamにLineを入れた。

       順調です

    返事はすぐに来た。

       こちらも 整いました


    1時間後…

    『駅裏』で 6年振りの親子対面が行われた… 
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■22307 / inTopicNo.42)  すこしづつ…U-39
□投稿者/ 桃子 一般♪(22回)-(2018/07/20(Fri) 14:19:35)
    昨夜 帰ってから Madamに電話をしたのは 私だ。

    「国木田さんが 明日もこっちに滞在しているなら 夕方5時頃 駅裏に来てもらうようお伝えください!
     もし 迷ったら「美味しいコーヒー飲む機会 逃したくないでしょ」って(笑)」

    Madamは

    「それって…」

    「はい コウちゃんに コーヒー淹れさせます(笑)
     今度…なんて言ってたら いつになるかわからないですから…(笑) 善は急げ です」

    「恭子さん…ありがとう…由美子には 絶対来るように言うから…あとは 任せます」



    コウちゃんは スタッフの出入り口を使っている。

    お店のドアに「貸し切り」の札が出ていることには気付いていないハズだ。

    店内には Madamと国木田さんが居るだけだった。

    いつもと違う店内の雰囲気に 怪訝な顔をするコウちゃん…

    奥のテーブルに座っていた国木田さんが 振り向いた。

    一瞬の間のあと

    「なんでここに…」

    つぶやいたコウちゃんに Madamが言った。

    「詳しい話は あとでちゃんとするから…こちらにコーヒーひとつお願い」

    「あっ はい…っていうか…マスターは?」

    「居ない…オーダーは ヒロのコーヒーだから…」

    「えっ? 自分 まだ お客様にお出ししたことは…」

    「大丈夫! 私の古い友人だから(笑) お代は頂かないけど その代わり 練習台になって って言ってある」

    「そうですか…で 何を?」

    「『駅裏オリジナル』をお願いします」

    国木田さんが 凛とした声で言った。

    「少々お待ちください」



    コウちゃんは いつも部屋で淹れてくれる時と同じように

    真剣で 優しいまなざしで コーヒー豆と向き合った。

    コーヒーのドリップの音と絞ったBGM以外は 何も聞こえなかった。

    「お待たせしました」

    「ありがとうございます」

    国木田さんの言葉を背中で受けながら コウちゃんは カウンターの中に戻ってきた。

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■22308 / inTopicNo.43)  すこしづつ…U-40
□投稿者/ 桃子 一般♪(23回)-(2018/07/20(Fri) 14:22:36)
    「どう?」

    「美味しい♪」

    「でしょ?」

    「うん…ありがとう…」

    「お礼なら 私じゃなく 恭子さんに…」

    「えっ?」

    「昨夜 あの後 電話くれて とにかく国木田さんを呼び出してって!
     もし渋ったら『美味しいコーヒー飲む機会を一生逃しますよ』って脅せって(笑) ねっ?」

    「一生なんて言ってません…それに 脅せだなんて…」

    「でも そんな迫力感じたけど?」

    「まぁ…気持ちは…それに近いものが…」

    「でしょ?(笑)」

    Madamとのやりとりを聞いていた国木田さんが

    「そうだったの…本当に ありがとう…」

    コウちゃんが 国木田さんの顔を見て言った。

    「自分は ここで元気にしてます。これからも ここで元気にやっていきます。
     また こっちに来ることがあったら 顔を出してください。
     その時には 練習台ではなく ちゃんと お代を頂けるようになってますから…」
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■22309 / inTopicNo.44)  すこしづつ…U-41
□投稿者/ 桃子 一般♪(24回)-(2018/07/20(Fri) 14:27:17)
    帰る国木田さんを外まで見送ったMadamが お店に入ったのを見て

    「どういうことか 説明してもらいましょうか!」

    コウちゃんが口火を切った。

    「恭子さんが 1枚噛んでいるのはわかりました。でも…接点がみつかりません」

    「簡単なことよ。昨夜 ウチで一緒に食事したの…」

    Madamが 何でもない顔をして言った。

    「なんで? どうしたら こういう組み合わせになるんですか?」

    「普通に考えたらわかるでしょ…親が子どものことを心配して 様子を見に来たって…」

    言葉に詰まるコウちゃんを見るのは 久し振りだった…

    「まさか 思いもしなかったとか?」

    どうやら 図星だったらしい…

    「あんたねぇ…いきなり卵から産まれたわけじゃないでしょ(笑) 産んでくれた人がいたから 今 ここに居るんでしょうが…」

    「はぁ…」

    「そりゃ…大抵の場合 産んでくれた人と育ててくれる人は同じだけど 何かの拍子で
     そうならない親子なんて 世の中には 山ほどあるでしょ…中には 会いたくても会えない状況に
     なった人だっている…たまたま あんたの場合は 別れることにはなったけど
     会えなくなったわけではない…会いたくなって会いに来た…それだけのこと… 何か 文句ある?」

    「文句はないけど…」

    「けど?」

    「どうして 恭子さん…」

    思いが言葉にならないコウちゃんを見たのも 久し振りだ…

    「ヒロじゃなく 恭子さんを呼んだか?」

    「うん」

    「そりゃ 子どもが付き合っている人が どんな人か 気になるのは 当たり前でしょうが…
     話には聞いてても ホントにいい人かどうか…6歳も年上なんて たぶらかされてるんじゃないか…
     ここは ひとつ 私が 相手の本性を暴かなくっちゃ…って決死の覚悟で乗り込んできたのよ(笑) 」

    「それで?」

    「本性を暴くどころか 我が子の『人を見る確かな目』に圧倒されただけ(笑)
     どんなに難癖つけても ひるむことなく堂々としてて…全然 太刀打ちできなかった(笑)
     それどこころか 二度と会うことは叶わないって思ってた我が子との再会まで 演出してくれて…
     完全に 頭が上がらなくなったかも(笑) 」

    「そんなにすごかったんですか?」

    コウちゃんが 私に話を振った。

    「ううん…そんなことない…」

    「恭子さん 謙遜し過ぎ(笑)
     『私は 宏海さんのことは どんなことでも知りたいです
      でも…それは…宏海さんのタイミングで 話してくれたらいいんです…』って言い切った姿は
      ヒロにも見せたかったな(笑)
     そのあとのひとことが…
     『国木田さんが 手放してくれたおかげで 宏海さんに会えました』
     テレビドラマみたいだった(笑)」

    Madamの言葉に コウちゃんも 少し 落ち着きを取り戻したみたいだった。
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■22310 / inTopicNo.45)  すこしづつ…U-42
□投稿者/ 桃子 一般♪(25回)-(2018/07/20(Fri) 14:29:59)
    「それが どうして 今日 ココに来ることになったんですか?」

    「 Madamが『ヒロのコーヒー飲みたいね』って言った時 国木田さん ちょっと寂しそうだったの…
     “この人はヒロ君が淹れたコーヒー 1度も 飲んだことが無いんだ…”って思ったら
     どうしても 1杯飲んでほしくなって…」

    「そうだったんですか…」

    「うん…」

    Madamが 私達が お店に到着した時の国木田さんの様子を話してくれた。

    「ホントは ヒロに会うのは怖いって…でも コーヒーを飲んだら…この先 二度と会えなくても
     生きていく支えになると思って来たって…」

    お店を出た国木田さんからの伝言は

    「今度は ちゃんとお客として来ます」だった。

    「そうですか…じゃ…こっちからも伝言お願いします…
     いきなり来られると 動揺するので 前以て連絡お願いしますって… (笑)」

    「わかった(笑) ちゃんと言っとく…これからデートでしょ…楽しんできなさい(笑)」
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■22311 / inTopicNo.46)  すこしづつ…U-43
□投稿者/ 桃子 一般♪(26回)-(2018/07/20(Fri) 14:32:06)
    2人で『駅裏』を出た。

    車のエンジンをかけながら

    「昨日 ビックリしたでしょ?」

    コウちゃんが言った。
    「うん…あたし…一生分 驚いた気がする(笑) まさか お母様に会うなんて…想像してなかったもん…
     でも…コウちゃんの御両親は マスターとMadamの方が しっくりする…不思議だね(笑)」

    「それだけ 自分も馴染んできた ってことでしょうか?…
     ところで恭子さん! 我々は 何処へ向かえばいいんですか?」

    「ごめん…お店は予約してないの…コウちゃん 何食べたい?」

    「何でもいい?」

    「うん」

    「冷製パスタとスープ!」

    「それって…」

    「はい(笑) コレを食べないと 夏が始まりません( *´艸`) 買い物した方がいい?」

    「ううん…大丈夫…」

    「じゃ 帰りましょう(^^♪」

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■22312 / inTopicNo.47)  すこしづつ…U-44
□投稿者/ 桃子 一般♪(27回)-(2018/07/20(Fri) 14:35:34)
    食事の後…

    「まだ早い時間ですね(笑) 恭子さん 何か呑みます?」

    「今日は アルコールはダメだよ」

    「えっ?」

    「えっ じゃないでしょ(笑) たまには 肝臓も休めなさい(笑)」

    「はいはい…どれ…お茶でも淹れましょうかねぇ…恭子さんも飲みますか?(笑)」

    「ありがと♡」

    「優しいんだか優しくないんだか…(笑)」

    「こんなに優しい人は 居ないと思うけど?(笑)」

    「そういうことにしておきましょうかねぇ…」

    「不服?」

    「いえいえ とんでもございません(笑) 奥様 お茶がはいりました(笑)」


    2人で ソファを背もたれにして フローリングに座った。

    コウちゃんの肩に頭を乗せる…私の一番好きな瞬間だ。

    ふいに コウちゃんが 思い出し笑いをした。

    「どうした?」

    「いや…Madamの言葉を思い出して…」

    「えっ?」

    「国木田さんに言い切った ってやつ…(笑) ホント 生でみたかったなって」

    「バカ! 必死だったんだからね(>_<) 」

    「でも Madam は 負けてなかったって…(笑)」

    「そんなこと ないない(笑)」

    「ホント?」

    「うん…勝ち負けじゃなく…ただ…あたしが コウちゃんをどう思っているか 正直に伝えようって…
     それが ちょっと 強気に…(笑)」

    「そっか…」

    コウちゃんは 急に真顔になって

    「恭子さんのお陰で 久し振りに国木田さんに会えました。ありがとうございました」

    「そんな…」

    「だって…あんなだまし射ちのアイディア考えるのって 恭子さんくらいっすよ(笑)」

    「コウちゃん それ ほめ言葉になってないっ!」

    「フフフ(^^)」

    「バカっ! …シャワーしてくるっ」

    コウちゃんは ただ 笑っていた…
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■22313 / inTopicNo.48)  すこしづつ…U-45
□投稿者/ 桃子 一般♪(28回)-(2018/07/20(Fri) 14:37:33)
    リビングに戻ると コウちゃんは ダイニングテーブルで ノートパソコンを開いていた。

    「課題?」

    「合宿のレポート(^^♪ 来週提出なんで ちっと まとめておこうと思って…」

    「呑んだくれていたわけじゃないんだ(笑)」

    「8割は 呑みだったんですけどね(笑) 残りの2割が…」

    「そうなんだ…あんまり 遅くならないようにね(^^♪」

    「了解っす」

    「よっし できたっ」

    コウちゃんが 声を出したのは 1時間後だった。

    「終わった?」

    「はい(^^♪ あとは プリントするだけです…シャワーしてきますっ」

    「うん」
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■22314 / inTopicNo.49)  すこしづつ…U-46
□投稿者/ 桃子 一般♪(29回)-(2018/07/20(Fri) 14:40:20)
    コウちゃんが寝室に戻ってきた。

    「やっぱ ココがいちばんホッとします(笑)」

    ベッドに大の字になりながら言った。

    「眠れなかった?」

    「枕が変わったら眠れない ってタイプじゃないんで(笑) 睡眠は取れてました(^^♪ でも…」

    「でも?…」

    コウちゃんの伸ばした右手に頭を乗せながら訊いた。

    「去年も 同じこと思ったんですが…落ち着かなかったです(笑)」

    「うん…あたしも 落ち着かなかった…どこに頭を置いたらいいのかわからなくて…(笑)」

    3日ぶりのコウちゃんのキスは いつもと変わらない優しいキスだった。

    コウちゃんの舌が 私の下唇を舐める…この瞬間が 私は 好きだ。

    わずかに出来た隙間から覗く私の舌を コウちゃんは見逃さない。

    優しく 力強く入ってくる。

    私は 自分からコウちゃんの舌を迎える。

    どちらが自分の舌かわからなくなる…

    コウちゃんは 普段 口数が多い方ではないけれど ベッドの中では 饒舌だ。

    激しくしてほしい時は 激しく 優しくしてほしい時は 優しく…

    何も言わなくても 私の欲求を満たしてくれる。
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■22315 / inTopicNo.50)  すこしづつ…U-47
□投稿者/ 桃子 一般♪(30回)-(2018/07/20(Fri) 14:43:52)
    突然コウちゃんの動きが止まった。

    体を離して 静かに言った。

    「恭子さん 何かありました?」

    「えっ…」

    「なんか ヘンに力が入っているような気がします…」

    (このコには隠し事出来ないな(笑) )

    「何がってわけじゃないんだけけど…」

    「うん…」

    「ねぇ…コウちゃん…」

    「はい?」

    「いいや…やっぱりいい!」


    こういう時 コウちゃんは いつも 静かに待っていてくれる。

    「ねぇ…」

    「はい」

    「あたし達のセックスって どうなのかな?」

    「へっ? すみません…素っ頓狂な声になってしまいました(^-^;」

    「裏返ってたね(笑)」

    「いつから そんなこと 考えてたんですか?」

    「ずっと考えていたわけじゃないの…実は…木曜日に 和美とランチしたのね…」

    「はい…」

    「で…そんな話になって…」

    「うん…」

    「週に…何回…とか…」

    「うん…」

    「誘うのはどっちだ…とか…」

    「うん…」
    「彼女の話聞いてたら…ウチとは全然違うなって(笑) あたし…求めすぎてるのかなって…
     そもそも組み合わせが違うから 比べるのはヘン ってわかってるんだけど…」

    「うん…」

    「あのね…正直言うとね…昔 お付き合いした人とは…」

    「うん…」

    「こういうものなんだろうなってカンジで 淡々としてたの(笑)
      全てにおいて そうだったから…最後は 愛想尽かされちゃったんだけど…
     コウちゃんとは…好きな時にキスして くっついて…あたし コウちゃんのこと 貪ってるよね…」 

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■22316 / inTopicNo.51)  すこしづつ…U-48
□投稿者/ 桃子 一般♪(31回)-(2018/07/21(Sat) 11:03:29)
    言いながら コウちゃんに覆い被さった。

    「恭子さんの経験値には勝てませんが 自分だけが 食われてるなんて思ってませんよ(笑)
     貪ってるのはお互い様です(^^♪」

    コウちゃんは 穏やかに言い切った。

    「うそ…」

    「うそって何ですか?(笑)」

    「だって…」

    「焦らないでちゃんと考えてください…それでも信じられない?(笑)」

    コウちゃんの言う通りだった…

    私が求める時 コウちゃんの反応が おざなりだったことは 一度も無い。

    もちろん その逆も無い。

    「思い出しました?」

    「うん」

    「数えきれないくらい重なって…何回 不完全燃焼でした?」

    「いつも完全燃焼…」

    「でしょ? お互いを拒んだことは?」

    「一度も無い」

    「でしょ?(笑) どっちが誘うかなんて…関係あります?(笑)」

    「ない…もうひとつだけ訊いていい?…コウちゃん…満足してる?」

    「自分は…隣に恭子さんが居てくれるだけで めっちゃ 幸せです…
     ところで…続きどうします?(笑) 明日にします?」

    「バカ…」

    コウちゃんの唇を塞いだ。

    コウちゃんの両手が 私の乳房を掴んだ。

    「…」

    声にならない声が出た。

    コウちゃんに 乳房を掴まれたまま 私は 唇から離れてコウちゃんの固くなった乳首を口に含んだ。

    コウちゃんの体が ビクンと跳ねた。

    コウちゃんが私を知り尽くしているように 私もコウちゃんを知っている。

    お互い 言葉は要らない。

    2人で 大きな波に 何度ものまれた。

    「激しかったね(笑)」

    「恭子さんが…でしょ(笑)」

    「バカ…」

    「もう一回 シャワーします?」

    「ううん…シャワーは明日の朝でいい…」

    「1回じゃ 終わんない?」

    「バカ…」

    「フフフ…」

    「何?」

    「いや…恭子さんに 何回 ″バカ″って言われたかなって思って…」

    「バカ…」

    結局 3回 重なって…眠りに就いた。


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■22317 / inTopicNo.52)  すこしづつ…U-49
□投稿者/ 桃子 一般♪(32回)-(2018/07/21(Sat) 11:06:41)
    ミカから電話があったのは 夏の高校野球の代表が決まった日の夜だった。
     
    「ごめん…今 何処にいる?」

    「部屋だよ」

    「今から行ってもいい? 1人じゃないんだけど…」

    「うん 大丈夫! 気を付けて来てね」


    マンションの入り口のインターフォンが鳴ったのは 30分後だった。

    ロックを外しながら

    「そのまま上がってきて!」


    ドアが開いた音がして ミカが入ってきた。

    恋人の南郷さんも一緒だった。

    「はじめまして 南郷と言います」

    「佐々木です…こっちは パートナーの…」

    「坂本です。 どうぞごゆっくり…」

    コウちゃんが 席を立とうとしたら ミカが

    「坂本クンも 一緒にいて」

    「えっ?」

    「お願いします」

    南郷さんが 言った。
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■22318 / inTopicNo.53)  すこしづつ…U-50
□投稿者/ 桃子 一般♪(33回)-(2018/07/21(Sat) 11:09:33)
    2人で話を聞いた。

    お付き合いを始めて1年…2人の気持ちは『結婚』で固まったとのこと。

    問題は ミカのお父さんが反対しているとのこと。

    「どうしたらいいのかわからなくなって…」

    「南郷さんのご両親は?」

    「両親は 僕が高校2年の時 交通事故で…その後は 兄貴が僕と年子の弟の面倒を見てくれました」

    (兄弟3人で頑張ってきたんだ…)

    同学年の南郷さんは 学生時代 柔道選手として活躍していた。

    高校で注目されるようになり 大学2年の時 オリンピックの代表選手に選ばれた。

    その強化合宿中に大きなケガをして オリンピックには出場出来ず そのまま引退したことは

    新聞記事で知っていたが 地元に帰ってきていることは ミカから聞くまで知らなかった。

    「お仕事は やっぱり 柔道関係ですか?」

    「いえ こっちに帰ってきてからは 会社員してます」

    「営業?」

    「総務です」

    意外だった。

    「このガタイと名前は 外回り向きなんですけど(笑) 自分は 内勤の方が性にあってるんで…」

    南郷さんは 頭をかきながら 優しく微笑んだ。

    真面目な人柄は ミカから聞いている通りだった。


    2人の出会いも 図書館だった。

    「手作り手芸品系の本」の場所を訊いた南郷さんに ミカが興味を持ったらしい。

    「だって あんな大きな手で 編み物したり 裁縫したりって…ちょっと気にならない?( *´艸`)」

    後で訊いたら「本屋さんに買いに行くのは恥ずかしくて…」だったそうだ。

    その時に借りた本で お兄さんのお子さんと弟さんのお子さんに 揃いのベストを編んだそうだ。

    「今では 両方のお嫁さんのリクエストを軽く捌ける腕前になった」と言って笑った。

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■22319 / inTopicNo.54)  すこしづつ…U-51
□投稿者/ 桃子 一般♪(34回)-(2018/07/21(Sat) 11:16:34)
    ミカのお父さんは 南郷さんに会おうとしないらしい。

    「一度も会ったことないの?」

    「ううん 1回 ご飯食べてる」

    「だったら…」

    「彼の人柄とか性格に難癖つけているわけじゃない っていうのはわかるんだけど…
     結婚は別で…自分の選んだ相手じゃないのが気に入らないみたい(笑) 」


    ミカのお父さん 深山教授は 教育界の第一人者として よくメディアにも出ている。

    ミカの名前は 深山香織と言う。

    「自分が選んだ相手との結婚生活が上手くいかなかったら…ってことは考えてないのよ(笑)
     そもそも 子どもが選んだ相手を否定するって おかしいでしょ?」

    ミカは お父さんに対して辛口だ…

    「お母さんも?」

    「母は 最初は『あんたの思う通りにしたら?』って言ってたんだけど
     最近は『南郷さんの気持ちを大切にしなさい』って言ってる」 

    「そっか…で… 南郷さんのご家族には会ったの?」

    「うん。お兄さん夫婦が 食事会を開いてくれて…弟さんも家族で駆けつけてくれた」

    「反対されてない?(笑)」

    「多分…大丈夫だと思う(笑) すぐ 名前で呼んでもらったし…」

    「兄貴も弟も お嫁さんや甥っ子たちも 僕には勿体無いって 香織のこと べた褒めでした(^^♪」

    「よかったね」

    「うん…ねぇ 坂本クンは どうやって 恭子のお父さんに認めてもらえたの?」

    「どうやってって…自分の場合は…恭子さんから『お父さんが会いたいって言ってる』って連絡もらって… 会いに行きました」

    話が 自分に回ってきたコウちゃんは 少し戸惑いながら言った。
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■22320 / inTopicNo.55)  すこしづつ…U-52
□投稿者/ 桃子 一般♪(35回)-(2018/07/21(Sat) 11:24:00)
    「怖くなかった?」と訊くミカに コウちゃんは

    「怖かったです(>_<) 緊張で 朝まで眠れませんでした…
     玄関のチャイム押す前にも 逃げ出したくなりました(笑)」

    「うそ…すごく落ち着いてたじゃない」

    思わず 口を挟んでしまった。

    「恭子 気付かなかったの?」

    「うん。今 初めて聞いた」

    「でも 逃げなかったんですよね?」

    南郷さんが コウちゃんに訊いた。

    「はい」

    「何故?」 

    「それは…ただ…恭子さんと一緒に生きていきたいっていう思いだけです(笑)
     ココを超えることが出来なければ 先は無い って思ってました…
     自分の場合…お父さんの立腹は尤もなことですから…正面からじゃないと わかってもらえないですし…
     それと…母親に「誠意を伝える覚悟がないなら 今すぐ 別れちゃいな」って言われたのも大きかったです…」

    「坂本さん その時 何歳でした?」

    「19歳になってスグでした…」

    南郷さんは コウちゃんの年齢に一瞬 驚きを見せたが その後 深く頷いていた。


    「坂本クン ひとつ訊いていい?」

    ミカが 言った。

    「はい…」

    「私…恭子が 坂本クンに惹かれていく様子は 隣でずっと見てたから わかるんだけど…
     坂本クンにとって 恭子は どんな存在なのかなぁ…って…」

    「それは…ミカさんにとっての南郷さん 南郷さんにとってのミカさんの存在と同じだと思いますが… 
     大切な存在です…守る とは ちょっと違うんですけど…」

    「うん…ホント そうだよね…年齢差は気にならない?」

    「ウチは 年齢よりも大きなモノがありますから(^^; 恭子さんに大変な思いをさせていると…」

    「それは 大丈夫だよ(^^♪ 恭子は ずっと 坂本クンしか見てないから…」

    「そうですか…」

    コウちゃんは 照れたように微笑んだ。 

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■22321 / inTopicNo.56)  すこしづつ…U-53
□投稿者/ 桃子 一般♪(36回)-(2018/07/21(Sat) 11:27:18)
    「私に足りなかったのは『覚悟』だったんだ…」

    ミカが 吹っ切れたように言った。

    「南郷君は 私のことを考えて 父に会うって言ってくれているのに 私は 一度 ダメを食らっただけで逃げ出して…
     自分の親なのにね…」 

    「ウチはたまたま 1回で 認めてもらえたけど もし ダメ出し食らってたら コウちゃん どうした?」

    コウちゃんに訊いた。

    「認められるまで お父さんのところへ 何度も通ったと思います…って言いたいところですが
     普段 お父さん ドイツですもんね(笑) あの時 OK貰えて よかったです(^^♪」

    「でも 坂本クンなら 飛行機に乗って足を運んだんじゃない?(笑)」

    ミカのひとことで なんとなく重かった空気が和んだ。
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■22322 / inTopicNo.57)  すこしづつ…U-54
□投稿者/ 桃子 一般♪(37回)-(2018/07/21(Sat) 11:34:44)
    コウちゃんがコーヒーを淹れてくれた。

    「駅裏とは ちょっと違うカンジがする…」

    ミカの感想に

    「違いがわかる程 ごひいきにして頂き ありがとうございますm(__)m」

    コウちゃんがおどけながら言った。

    「最近 二人で よく行ってるんだ(^^♪」

    「そうなの? 全然知らなかった…」

    「坂本クンから聞いてなかった?」

    「この人 お客さんのことは 何にも言わないから…」

    「そうなんだ…フフフ」

    「何? あたし 何かヘンなこと言った?」

    「恭子 今 坂本クンのこと “この人”って…奥さんが板についてきたね(笑)」

    「そんなつもりじゃ…」

    南郷さんもコウちゃんも 私達のやり取りを 楽しんでいるようだった…



    「親父にぶつかってみるわ…時々 グチ言いに来てもいい?」

    「ウチでよければ いつでも!
     南郷さんも くじけないでください…
     ミカは 私の親友で恩人なんです…彼女が背中を押してくれたから『今の私』が あるんです…」

    「大丈夫です! 僕も “このひと” って言ってもらえるように時間を重ねたいですから(笑) 逃げません」

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■22323 / inTopicNo.58)  すこしづつ…U-55
□投稿者/ 桃子 一般♪(38回)-(2018/07/21(Sat) 11:41:52)
    その後 ミカは 何度か ひとりでやって来た。

    『恭子のお父さんの爪の垢煎じて飲ませてやりたい(-.-)』 が ミカの口癖になっていた。

    「そんなに言うなら 会ってみる?(笑)」

    「でも…ドイツでしょ?…」

    「あたしの実家なら大丈夫でしょ?…来週 出張で ちょっと帰ってくるんだ(^^♪」

    「ホント?ホントに会える?」

    「うん…コウちゃんに会いに こっちに来るから(笑) その時でも どう?
     あたしとコウちゃんが居ない方がいいんだったら 南郷さんと2人で実家に行ってくれたらいいし…」

    「恭子と坂本クンが良ければ 一緒がいいな…」

    「わかった…都合の悪い日ってある?」

    「あたしは無いけど…南郷君は 木曜日以外がいいと思う…木曜日は 夜 ジムに通っているの」

    「じゃ木曜以外でね(^^♪ ジムって…南郷さん 復帰?」

    「まさか(笑) 膝の筋肉を鍛えるんだって…あのケガ 相当ひどかったみたいで…歩けなくなっても
     不思議じゃなかったんだって…筋肉も スポーツしていない人の半分以下くらいに落ちて…
     今も まだ 完全には戻ってなくて…だから『標準』をキープするために行ってるんだって…」

    「そうなんだ…」

    「身長185pもあって 肩幅もガッシリしているのに あたし お姫様ダッコしてもらえないんだよ(笑)  
     まっ 実際は お姫様ダッコ どころか…ってカンジなんだけどね(笑)」

    「えっ?」

    「うちは どっかの誰かさんとこと同じで 清いお付き合い ですから…(笑)」

    「どっかの誰かさんって…」

    「違った?(笑)」

    ミカが私の顔を見た。

    「あたし そんなこと言った覚えないけど…」

    「1回だけ…いつだったか 2人で飲んだ時…あたしが 茶化して訊いたら すっごいマジな顔で
     『そういう気持ち ないわけないじゃない!』って怒ってさ…
     『でも まだ 流されちゃいけないって思ってる』って…その時は ふたりの気持ちも同じで
     双方の親も認めているって言うのに 何を迷っているんだろうって思ったんだけど…今ならわかる…
     ちゃんと足場を固めたかったんだなって…それは 人それぞれだろうけど…
     恭子の場合は ルームシェアだったんだなって…
     恭子…坂本クンと暮らすようになってから 前よりもっと穏やかになったし 本当に幸せいっぱいってカンジだもんね…
     だから あたし 恭子を見倣うって…南郷君に言ったんだ(笑)」

    ミカが そんな風に見ていてくれたことに驚いた。
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■22324 / inTopicNo.59)  すこしづつ…U-56
□投稿者/ 桃子 一般♪(39回)-(2018/07/21(Sat) 11:46:08)
    「南郷さん 大丈夫だった? そんなこと言って…」

    「最初は びっくりしてた…(笑) でも…わかるって言ってくれて…
     あたし…出掛けても11時には帰るんだよ(笑)
     シンデレラよりも早いんだから!けど…さすがに…指1本も触れないっていうのは…ね(笑)
     だから 歩く時は 腕組んでる(笑) 」

    コウちゃんと腕を組んで歩くだけで嬉しかった頃を思い出した。

    「だからさっ あたし…焦る気持ちはないんだ…
     ゆっくりゆっくりしあわせになっているモデルが 目の前にいるから(笑)
     ただ…南郷君と話をしようとしない親父の態度が 腹立つんだよなぁ」



    食事会は 翌週の土曜日に決まった。

    「土曜日…おば様は?」

    ミカから打診されたのは 水曜日だった。

    「留守番(笑) ちょっとムクれてるけど… 」

    「おじ様と一緒は無理かな?」

    「そんなことない! むしろ 喜んで来ると思うけど…いいの?」

    「うん…実は…ウチの母が 恭子のご両親に会いたいって言いだして…厚かましくて ごめん…」

    「そんなの 全然 気にしないで! コウちゃんに 『腕によりをかけるように』 言っておくから(笑)」

    「“ウチの人” じゃないの?(笑)」

    「まだ そこまでは熟してないっ!(笑)」

    「そうなんだぁ( *´艸`) 」

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■22325 / inTopicNo.60)  すこしづつ…U-57
□投稿者/ 桃子 一般♪(40回)-(2018/07/21(Sat) 11:54:42)
    土曜日は 総勢7人の食事会になった。

    メニューは 手巻き寿司にした。コウちゃんは 文字通り 酢飯から具材まで準備してくれた。

    私にはよくわからないが 父や南郷さんは「このひと手間が…」と言っていたから なにかしらの工夫があったのだと思う。

    女性陣は「美味しいね」を繰り返すだけだった( *´艸`)

    コウちゃんが用意した寿司ネタは 殆ど カラになった。



    お腹がふくれたところで 父が口を開いた。

    両親には 予め 今日の目的は話しておいた。

    「恭子から聞きましたが お二人は どうして 私が 坂本クンと恭子の仲を認めたかを聞きたいとか?」

    「はい」ミカと南郷さんは 声を揃えて言った。

    「ミカさんのお父様は 南郷さんに会おうとしないとか?」

    「はい」ミカがはっきりと答えた。

    「私は 父親として お父様の気持ちがよくわかります。これは…理屈ではなく 感情が拒絶するんです」

    ミカが 静かに頷いた。

    「娘の相手が 同性で しかも 大学生になったばかりだと聞いた時は 耳を疑いました。
     一瞬 娘がふざけているのかと思いましたが 坂本クンの話をする娘は 真剣そのものでした。
     私は 自分の育て方を否定されたような気がして 娘を怒鳴ることしかできませんでした。
     『会わせられるもんなら会わせてみろ』と…正直に言うと…私は 意地の張り方を間違えたんです…」

    「えっ?」

    ミカが 小さな声を出した。

    「お父様のように『会わない』と言うべきだったんです…そうすれば 少しは時間が稼げたのに…
     でも 私は 娘には 私の言葉を相手に伝える度胸は無いと思い込んでいました…
     それに…もし 伝えることが出来たとしても…聞かされた相手は 当然 怯むだろうと…
     だから まだ 態勢を整える時間はあると…(笑)
     ところが 娘は スグに相手に伝えてしまった。おまけに正直に…
     それを聞いた相手は 怯むどころか 真正面からぶつかってきた…」

    父は 一度言葉を切ってから 続けた。

    「娘から『明日 坂本クンが ウチに来てくれるから』と 告げられた時は 腰が抜けそうになりました…
     まさか そんな迅速に話が進むとは思っていなかったんです…
     若干 追い詰められはしましたが それでも まだ 勝ち目はあると思ってました。
     相手は19歳になったばかり こちらは 百戦錬磨の企業人…分が悪いハズないじゃないですか…」

    南郷さんが 納得した顔で頷いた。

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