| 昨夜 帰ってから Madamに電話をしたのは 私だ。
「国木田さんが 明日もこっちに滞在しているなら 夕方5時頃 駅裏に来てもらうようお伝えください! もし 迷ったら「美味しいコーヒー飲む機会 逃したくないでしょ」って(笑)」
Madamは
「それって…」
「はい コウちゃんに コーヒー淹れさせます(笑) 今度…なんて言ってたら いつになるかわからないですから…(笑) 善は急げ です」
「恭子さん…ありがとう…由美子には 絶対来るように言うから…あとは 任せます」
コウちゃんは スタッフの出入り口を使っている。
お店のドアに「貸し切り」の札が出ていることには気付いていないハズだ。
店内には Madamと国木田さんが居るだけだった。
いつもと違う店内の雰囲気に 怪訝な顔をするコウちゃん…
奥のテーブルに座っていた国木田さんが 振り向いた。
一瞬の間のあと
「なんでここに…」
つぶやいたコウちゃんに Madamが言った。
「詳しい話は あとでちゃんとするから…こちらにコーヒーひとつお願い」
「あっ はい…っていうか…マスターは?」
「居ない…オーダーは ヒロのコーヒーだから…」
「えっ? 自分 まだ お客様にお出ししたことは…」
「大丈夫! 私の古い友人だから(笑) お代は頂かないけど その代わり 練習台になって って言ってある」
「そうですか…で 何を?」
「『駅裏オリジナル』をお願いします」
国木田さんが 凛とした声で言った。
「少々お待ちください」
コウちゃんは いつも部屋で淹れてくれる時と同じように
真剣で 優しいまなざしで コーヒー豆と向き合った。
コーヒーのドリップの音と絞ったBGM以外は 何も聞こえなかった。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
国木田さんの言葉を背中で受けながら コウちゃんは カウンターの中に戻ってきた。
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