| アパートに戻っても、激しい動悸が続いていた。 「どうしてあんな、あんなこと!」 首すじが、熱い。 用を足すためにトイレに入って、ケイコは愕然とした。 あっ、まさかそんな?! 下着を下ろしたら、ソコが糸を引くほど濡れていた。
ケイコは『アッシュ』について調べてみた。
超絶ギターテクの女性歌手であること。 ケイコより2歳若いこと。 デビューして2年経つが、ぱっとしないこと。 音楽のジャンルはブルースであること。
あまり情報がなく、この程度だった。 ケイコは次の日、あのライブハウスにいた。 自然と足が向いていた。今日も出演するはずだ。 昨日と同じく激しい曲のあと、あのラブソングが始まった。 ケイコはアッシュの視線を待った。 しかしアッシュはちらっと見ただけで、 すぐにギターに集中した。 ケイコはひどく傷ついている自分に驚いた。 バカみたい。これではまるで恋する乙女ではないか? 自分より年下で、しかも女性なのに。 ライブが終わっても、しばらく動けなかった。 いい大人が、なにをしているのだろう? 溜息をついて出口へ向かう。 出口の横にアッシュがいた。 腕組みをして壁にもたれていた。 目を合わせないよう、出ようとしたら、 アッシュに腕を掴まれた。驚いて振り向くと 「昨日はごめん!お詫びに飯を奢るよ!」 と言って、アッシュはさっさと歩き出した。 一度も振り向かないアッシュに、少しむっとしながらも、 ケイコは大人しく付いていった。 アッシュは呑むと饒舌になった。 自分のことを「カズミ」と名乗った。 ケイコは思わず吹き出した。あまりにも イメージと違ったからだ。 二人で自分の名前の不満を言い合った。 そしてアッシュは唐突に、ケイコの目を見つめ、 「ねぇ、一目惚れって信じる?」 と欲望にギラついた目でケイコを見た。 女の子に求愛されたのは、初めてだったが ケイコは舞い上がった。
女の子の一人歩きは危ないからと、 アッシュは年下のくせに言い張った。 でも部屋に誘ったのは、ケイコだった。 そして靴を脱ぐ前にケイコは抱きしめられ キスをされた。 今度はもう抵抗しなかった。
続く
|