| 「カズは、あたしの身体だけなの? いい加減にしてよっ!」 「そっ、そういうわけじゃ。」 「だいたい、自分勝手なのよっ。 見える所にキスマークつけないでって言ったよね。 それに私だってカズに触りたいよ。愛したいよ‥‥、 カズのライブだってそうだよ。」 これ以上、言ってはダメとケイコの頭の中で警告音が鳴ってる。 でも、もう止まらなかった。 「自分の曲を、好きなように演奏して 聴衆はおいてきぼりよ。カズの演奏は そりゃすごいよ。でも無理矢理なのよ。 聴いている人のこと考えたことある? ないわよね。いつも挨拶もしないじゃない? あなたの演奏はマスターベーションよ。」 言っているうちから、アッシュの顔が みるみる怒りに赤くなってゆく。 アッシュが一歩踏み出した。 「きゃっ」 ケイコは思わず屈み込んだ。
でもアッシュは黙って出て行った。
それきりアッシュは消えてしまった。 あれからケイコは、連絡の取れなくなった アッシュをあらゆる方法で探したが、 見つからなかった。 ケイコは、きっちり一週間泣き続けた。 それから少しずつ笑顔を取り戻していった。 カラ元気だったが、笑顔でいると何人かの男が言い寄ってきた。 でもケイコは誰とも付き合う気はなかった。 どうしても彼女のことを忘れることが できなかった。 どうしても、どうしても、どうしても 忘れることができなかった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ アッシュが居なくなって一年が経とうとしていた。 ケイコには生きている実感がなかった。 そんな時、ケイコの元に一枚のエアメールが届いた。 差出人の欄には『Kazu』と書かれていた。 ケイコは封を開ける前に泣き崩れてしまった。 中にはSDカードとメモが一枚。 メモには『PASSWORD Kei's birthday』と書かれていた。 「覚えててくれたんだ。」 ファイルを開いてみると、カズがアパートの一室で ぎこちない笑顔で写っている。 『ケイ、元気ですか?突然居なくなってゴメンね。 あの時言われた言葉、正直傷つきました。 でも冷静になると、その通りだと思いました。 そこで一からやり直すことにしたの。 あれから単身、ギターだけ持ってニューヨークへ渡りました。 別れの挨拶でケイのアパートまで行ったけど、 ケイの顔を見たら、くじけそうだったから、黙ってきちゃった。 まずストリートライブから始めたの。 運も良かったと思うけど、今のブロデューサーと出会えて、 そしてなんとこちらでデビューが決まりました。 やったね!』とガッツポーズをしてる。 『それで、◯月◯日の◯時着の便で ブロモーションのため日本に帰ります。 もしも、もしもケイにステディがいなかったら、 成田に来て欲しい。 来なかったら、二度と連絡しません。 ケイと愛し愛されるエッチがしたい。 来てくれることを願ってます。』 「ばかぁ、なに言ってるのよ!もう。心配したんだから!」 顔を赤らめながら、泣き笑いするケイコだった。
完
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