| 「亜紀、亜紀っ!」
誰かの声に。
「‥んっ?」
まだ重い瞼を、ゆっくりと開く。
あっ。今、仕事中!
ガバッと起き上がろうとするが、
腕の中でスヤスヤ眠る優太君に気付き、また後ろに倒れそうになった。
「亜紀先生はこんなに堂々とサボりですか。」
目の前に居たのは清水さんで。
あぁ、怒ってる‥。
「言い訳してごらん。」
明らかに怒りを含む声に、話す前から威圧されて。
「あっ‥えっと‥。」
言葉につまる。
優太君をなだめて、
お遊戯会に途中参加。
の、つもりだったのに。
泣き疲れて眠る優太君を見てたら、 いつのまにか私も寝てしまった。
不覚‥。
「すみませんでした!」
私は優太君を抱えたまま立ち上がり、
深く頭を下げる。
けれど‥清水さんから返事はない。
恐る恐る、目だけを清水さんへと向けると。
からかうように笑ってた。
「‥?」
「柚羅から聞いたよ。大丈夫、怒ってないから。」
そう言って優しく微笑む。
清水さんは、美人で。
でも冷たいような、そんな雰囲気があって。
だからその微笑みは、ものすごく魅力的に感じた。
「お疲れさん。」
私の頭をポンポンと撫でて、優太君を抱き寄せる。
「あっ、ありがとうございます!」
私はもう一度、深く頭を下げた。
「いいえ。じゃあ後片付けいってらっしゃい。」
笑いながら、私に軽く手を振る。
えっ?後片付け‥?
うそ。お遊戯会終わったの‥?
「あんまり気持ち良さそうに寝てるもんだからさ。起こせなかったよ。」
クスクスと笑う清水さんを見て。
この人はこーゆー人なんだって。
私が楽しみにしてたの知ってるくせに。
あぁ‥イジワル。
「来年もあるさ♪」
と。来年も私がいることを前提に。
あくまでも前向きな清水さんに。
半分呆れながら、
どこか安心したような。
気が楽になる、そんな暖かい感情に包まれた。
(携帯)
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