| 父親の急な海外転勤に伴い、早乙女來羽(このは)は隣町の女子校に転校することになった。 まだ高校一年生の來羽が日本に残ることを両親が許したのは、 その学校が全寮制だったからだ。
來羽が転校する学校は少し変わっていて、 入学試験はAO入試のみで、編入試験もまた例外ではない。 内申書と面接だけで合格が決まるというのに、 なぜか偏差値が高い進学校で、近隣に住む女生徒の志望校として 常に上位を占めるほどの人気ぶりだった。
それもそのはず…このサ・フォス女学園は 一に美貌、二に教養を極秘の校訓として掲げており、 書類審査で半分以上が落とされる。 ここでは、何をおいてもまずは女性的な美しさが求められる。 身長160cm以上に華奢な肉体。 そして有無を言わせない端正な顔立ち。 それが最低限の合格条件だった。
來羽の場合、身長は161cmとギリギリだったが、 幸いにも童顔と愛嬌ある表情が面接官の目に留まり、 無事編入試験を合格できた。 今日は、試験以来二度目の学校に通う日だ。 理事長室は試験会場だった上に校門からすぐの建物にあるため、 來羽は迷うことなくたどり着くことができた。
コンコン… 「転入生の早乙女です」
少し声が上ずってしまった。
「どうぞ、お入りなさい」 が、すぐに中から返答があったことが救いだった。
「失礼します…」
ガチャッとドアノブを回して中に入る。 手汗をかいているように感じるのは、暑いだけではないはずだ。
ドクン…ドクン…
うるさいくらいの心臓の鼓動が、ますます緊張を高めていった。
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