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■4882 / inTopicNo.1)  妖・拗・熔
  
□投稿者/ 琉 一般人(1回)-(2007/11/11(Sun) 22:52:15)
    この世には、想像を絶するほど艶かしく
    刺激的な世界が広がる学校があるの。


    マゾっ気がある人なら一度は夢見るハーレムの世界。
    たくさんの美人に囲まれては寵愛されるめくるめく官能への誘い。



    …あら?
    今日も迷える子羊が一人、紛れ込んできたようね。
引用返信/返信 削除キー/
■4883 / inTopicNo.2)  第一章 世にも妖艶なる学園 (1)
□投稿者/ 琉 一般人(2回)-(2007/11/11(Sun) 23:15:12)
    父親の急な海外転勤に伴い、早乙女來羽(このは)は隣町の女子校に転校することになった。
    まだ高校一年生の來羽が日本に残ることを両親が許したのは、
    その学校が全寮制だったからだ。

    來羽が転校する学校は少し変わっていて、
    入学試験はAO入試のみで、編入試験もまた例外ではない。
    内申書と面接だけで合格が決まるというのに、
    なぜか偏差値が高い進学校で、近隣に住む女生徒の志望校として
    常に上位を占めるほどの人気ぶりだった。

    それもそのはず…このサ・フォス女学園は
    一に美貌、二に教養を極秘の校訓として掲げており、
    書類審査で半分以上が落とされる。
    ここでは、何をおいてもまずは女性的な美しさが求められる。
    身長160cm以上に華奢な肉体。
    そして有無を言わせない端正な顔立ち。
    それが最低限の合格条件だった。

    來羽の場合、身長は161cmとギリギリだったが、
    幸いにも童顔と愛嬌ある表情が面接官の目に留まり、
    無事編入試験を合格できた。
    今日は、試験以来二度目の学校に通う日だ。
    理事長室は試験会場だった上に校門からすぐの建物にあるため、
    來羽は迷うことなくたどり着くことができた。

    コンコン…
    「転入生の早乙女です」

    少し声が上ずってしまった。

    「どうぞ、お入りなさい」
    が、すぐに中から返答があったことが救いだった。

    「失礼します…」

    ガチャッとドアノブを回して中に入る。
    手汗をかいているように感じるのは、暑いだけではないはずだ。

    ドクン…ドクン…

    うるさいくらいの心臓の鼓動が、ますます緊張を高めていった。
引用返信/返信 削除キー/
■4888 / inTopicNo.3)  (2)
□投稿者/ 琉 一般人(3回)-(2007/11/12(Mon) 19:03:01)
    中に入ると、さらに細長い通路の奥に二人の女性が立っているのが確認できた。
    あんなに離れているというのに來羽の声が届いたということは、
    それだけこの部屋は音響性に優れている空間なのだろう。

    「ようこそ、当学園へ」
    真っ赤な絨毯が敷かれた一本道の先で温かな笑顔で微笑んでくれたのは、
    中央の大きな椅子に腰かけている女の人だった。
    「理事長の春日井です」
    彼女には一度、面接試験でお会いしている。
    それでなくとも、堂々とした振る舞いや落ち着いた仕草から、
    一目でそれらしい人ではないかと勘ぐってしまう。

    …それにしても

    初めて対面した時にも思ったが、理事長と名乗る彼女は何歳くらいなのだろうか。
    長身で髪も肌もツヤツヤ、おまけに細めのパンツスーツが似合っている風貌からは、
    とてもじゃないが学園を束ねる運営幹部とは信じられない。
    博士課程の学位を持ちながら、今年で理事長就任から十周年を迎えるというからには、
    まさか二十代のはずはあるまい。
    しかし、だからといって母親の年ほど離れているとも思えない。
    いずれにせよ、そのくらいの世代ということになる。
    女性に年齢を面と向かって訊ねるのは憚れるが、
    それでも伺いたくなるのは、やはり理事会トップという責任の重い管理職にしては
    とにかく若いという印象を強く受けるからだ。

    「聴いてる、早乙女さん?」
    注意散漫になっている素行をすぐに見抜くのは、若いだけでなく有能な証拠だ。
    「は、はい。すみません」
    余計なことばかり気にしてしまうのは、來羽の悪いクセだった。
    「良い?もう一度だけしか言わないから、よく聴いて」
    何だか女王様気質な口調が板についているように感じるのは、さすがというべきか。
    「彼女があなたの編入先になる一年二組の担任よ」
    理事長からそう紹介されたもう一人の女性は、手を差し伸べながら挨拶した。
    「初めまして、担任の緑川聡美です」
    名前にちなんでかは分からないが、薄い緑色のフレアスカートがよく映える
    清楚で美しいこの女性が來羽のクラス担任らしい。
    「あ、こちらこそ…どうぞよろしくお願いします」
    軽い握手を交わしながら、彼女は何やら分厚いパンフレットらしき物を出した。

    お、重い…

    実は、いま現在すでに來羽は手荷物一式を詰めたスーツケースを持ってきていた。
    寮には今夜から寄宿するので、引越し用のダンボールを含めて
    諸々の整理を始めるのは授業が終わってからになる。
    その上、こんな重量感たっぷりの書物が追加された日には…
    一日の行動が拘束されてままならないに決まっている。

    すると、いつの間に立ち上がったのか、理事長は來羽のすぐ側まで近寄ると、
    パンフレットの真ん中あたりから小さなカードだけを抜き取った。
    「これが、生徒手帳よ」
    手渡されたのは、専用のケースに入ったキャッシュカードほどの薄い身分証だった。

    ん…?

    よくよく見ると、この手帳、ICチップ内蔵と表示されてある。
    「この生徒手帳は、偽造防止のためにICチップの他に
    生体認証機能や位置確認ができるGPS機能を搭載するなど、
    学園生活を営むにあたって最低限のサービスを提供しているの」
    聴けば、この学校では授業の出欠をとる時や学食を利用した時のお会計、
    さらには学生専用のインターネットに接続する際に至っても
    いま貰ったばかりのこの生徒手帳カードで行なうという。
    最新設備を徹底しているのは一種の校風とも考えられるが、
    全てが一枚で片づく手形のようである反面、
    これを紛失してしまった場合を思うと…多大なる不便を被りそうだ。
    生徒手帳がなければ、寮にも帰れないのだから。

    「この荷物は、放課後までここで預かっておくわ」
    救世主のような理事長の申し出をありがたく受けて、学内で生活するのに
    どうしてGPS機能までつける必要があるのかという疑問を
    ぼんやりと抱えながら、來羽は肩に聡美の手を添えられたまま
    この部屋を後にした。
引用返信/返信 削除キー/
■4895 / inTopicNo.4)  (3)
□投稿者/ 琉 一般人(4回)-(2007/11/13(Tue) 16:31:21)
    聡美に導かれながら、來羽は一年二組の教室へと向かった。
    何段もある階段を上り、長いながい廊下を歩き続けていると、
    校内の要所らしき施設をいくつも通り抜ける。
    お嬢様学校に匹敵するほどの学費がかかるわけでもないのに、
    校舎はどの建物もピカピカで綺麗だった。
    何でも、一流企業で活躍する卒業生からの寄贈品なのだそうだ。
    外観同様、内装も白と黒を基調にしていて、
    それまで通っていた学校に比べてやけに窓が大きい。
    学食のホールに至っては全面ガラス張りで、
    言われなければどこかの美術館のようである。
    最近、立て替えた際に設計を手がけたのもまた卒業生らしい。

    すごい学校…

    モデル体型の見目麗しい女生徒がそこかしこを歩いている。
    まるでタレント養成スクールのようだ。
    ここには男性の教師はもちろん、
    ボーイッシュな女の子までも一人として居ない。
    校則で特に定められているわけでもないというのに、
    何故だか髪が腰まである生徒が多い。

    クスクス…

    さっきから、すれ違う生徒に笑われているように感じるのは…
    気のせいだろうか。
    もしかして、あまりに子供っぽいから快く思われてないのかも。
    そんな猜疑心ばかりが來羽の心を駆け巡る中、
    ふと前を歩いていた聡美の背中にぶつかった。
    「ねぇ、ところで…」
    どうやらことの発端は彼女が急停車したことによるらしい。
    「早乙女さんは、ご親戚に本校の卒業生がいらっしゃるの?」
    しかも、聡美が突然話し始めた話題には脈絡というものがまるで感じられなかった。
    「…は、はい?」
    彼女の話はその内容もさることながら、
    何故いま、ここで?というタイミングからも來羽を困惑させた。
    「いません…けど?」
    一応、質問には答えておく。
    來羽の身内には、誰一人としてここの卒業生はいない。
    母も祖母もみんな私立の女子校になど通ったことはなかったはず。
    「早乙女さん、身長は何センチ?」
    またも、聡美の意味不明な質問は続く。
    「えっと…160cmちょっとです」
    「じゃあ、体重は?」
    「最近計ってないから…50kgはいってないと思いますけど」

    …何が言いたいんだろう?

    段々、質問の意図が分からなくなってきた。
    面接でも訊かれないような珍問ばかりに、
    何だかんだで真面目に答えている自分。
    來羽はそんなことばかりを考えていると、
    さすがに聡美も気づいたようで声をかけてきた。
    「ああ、ごめんなさい。別に悪気があって
    こんなことを訊いたわけではないのよ。
    ただ、今までに見ないような女の子だなぁと思って…」

    やっぱり…

    『今までに見ないような』って、たぶん幼いとか幼稚だって意味。
    そりゃあ?
    こんなに選りどりみどりの美女集団に囲まれてしまうと、
    もともと童顔寄りな來羽の顔もますます引き立つというものだろう。
    教員は全て学園出身者という聡美だって、理事長ほどではないにせよ、
    長身で均整のとれたスタイルの美人さんだ。

    「本校の生徒は何て言うのかな…ちょっと変わり者が多いの。
    おまけに、今年の一年生はやんちゃな子がたくさん居るから
    取り合いになって大変だろうと思うけど、
    とりあえず、自己紹介頑張ってね」
    そう言ったかと思うと、聡美は教室の引き戸を開いて
    さっさと中に入っていってしまった。
    上を見上げると、そこには『一年二組』の表札が高々と掲げられている。
    來羽は、いつの間にか目的地に到着してしまっていた。

    変わり者?やんちゃ?取り合い!?

    聡美の話は、何一つ脈絡がない。
    けど、こんな彼女が來羽のクラス担任だというのだから、
    少なくとも変わり者という単語だけは理解できそうだった。

    「転入生を紹介します」
    教室から、聡美の声が聞こえる。
    この向こうにどんな世界が待っているのか分からないけれど、
    いまここから來羽の学園生活が始まろうとしていた。
引用返信/返信 削除キー/
■4896 / inTopicNo.5)  とても楽しみです(^O^)
□投稿者/ 美香 一般人(1回)-(2007/11/13(Tue) 16:46:53)
    この小説の続きがとても気になります(o^∀^o)
    更新を楽しみに待っています
    (≧∇≦)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■4904 / inTopicNo.6)  美香さま
□投稿者/ 琉 一般人(5回)-(2007/11/14(Wed) 15:59:15)
    初めまして。感想、ありがとうございます。
    美少女ばかりが在籍する都合の良い女子校ですが(笑)、
    ご期待にそえることができれば幸いです。

引用返信/返信 削除キー/
■4905 / inTopicNo.7)  (4)
□投稿者/ 琉 一般人(6回)-(2007/11/14(Wed) 16:14:24)
    一年二組の教室に足を踏み入れると、途端に空気が変わる。
    教壇までの一歩いっぽが來羽には果てしなく遠く感じられるというのに、
    一足先に教壇で雄弁をふるう聡美は、早乙女の『早』の字を書き始めている。
    もう後には退けない…
    そんな切迫感からか、來羽は目を閉じたまま勢いよく段差を上った。

    ああ、こんな美人ばっかりのクラスで自己紹介なんて…

    改めて目の前にしてみると、本当に壮観な景色だ。
    女の子だけしかいない環境もさることながら、
    横五列、縦六列の約三十人ほどの綺麗な顔立ちをした少女たちが、
    一様にこちらを見つめている。

    ジリジリ…

    ただでさえあがり症で、初対面の集団の前では挙動不審な態度を
    とってしまうことに悩んでいる來羽であるのに、
    突き刺さるような視線がさらに緊張を高めていく。
    きっと、いま來羽の頬は真っ赤に染まっていることだろう。

    「隣町の公立高校から転入してきました、さ、早乙女…來羽です。
    不慣れな面も多くてご迷惑をおかけするかもしれませんが
    …ど、どうかよろしくお願いします」
    学級全員が眼差しを向ける中で、來羽はたどたどしくも挨拶した。

    シーン…

    聞こえてくるのは、時計が時間を刻む音だけ。
    沈黙が苦手じゃない人でも、この状況に耐えることができる
    精神力の持ち主はそういないはず。

    何か変なことを言ったかな…

    世の中、自己紹介のやり方にはいろいろあるはずだが、
    何か面白いことをしておどけてみせることができない來羽は、
    いたって基本的な情報を簡潔に伝えただけに過ぎない。
    けれども、このオーソドックスな方法というのは、
    静かなクラスにも騒がしいクラスにも万能的な、
    ある意味重宝して然るべきはずなのに…

    やんちゃって言ってなかった…?

    やんちゃとは、元気があるとか威勢が良いとか、
    少なくとも活気に満ちた状態のことをいうはずだ。
    なのに、この一年二組ときたら…
    活気どころかお通夜のような静けさで溢れていた。

    ジリジリ…

    突然、來羽は身体中が火照るくらいに熱い視線を感じた。
    どこから…というより、この教室全体から。
    それは、頭から足元の隅々まで、舐めるような視線だった。
    言葉で表現するならば『視姦』である。
    よく眼を凝らしてみると、クラスメイトたちは
    瞬きすらしない状態でこちらを見ている。
    転校生には興味がないのかと思いきや、視線は決して逸らさない。
    何とも不思議な空間だった。

    「あー、早乙女さんはお父様の転勤に伴い、ご両親が
    海外に移住なさるという事情により本校に転入してきました。
    慣れない環境で大変なはずなので、仲良くするように」
    すかさず救いの手を差し伸べてくれる聡美が、
    いまの來羽からは天使のように思えた。
    「席は…じゃあ、この席で」
    彼女が指定した空席というのは、
    何と教壇のすぐ前方にある最前列の真ん中だった。
    「えっ!?」

    …転入生って、後ろの席じゃないの?

    驚きたくなる気持ちも、分かってほしい。
    よくあるドラマでは、最後尾の窓側の席だったり、
    席にたどり着くまで足を引っかけられるイタズラをされたり、
    はたまた隣の席の問題児と仲良くなったり…
    そんな青春ストーリーが展開されるのかと期待してみたら、最前列って。
    「あいにく、ここのクラスは後ろの席から埋まっていくんだ」
    そう促されたのが決め手となって、來羽は頭を垂れながら静かに着席した。

    ジリジリ…

    席につくまでも、着席した今でも、背後から突き刺さるような視線は感じる。
    たぶん、今日は一日中これが続くのかもしれない。

    …大丈夫か、アタシ?

    完全アウェイの敵地に乗りこんだ心境のまま、
    來羽は一限目の授業に臨んだ。
引用返信/返信 削除キー/
■4919 / inTopicNo.8)  (5)
□投稿者/ 琉 一般人(7回)-(2007/11/16(Fri) 13:22:03)
    「どういうおつもりですか?」

    ホームルームを終えて聡美が向かったのは、
    職員室ではなく、何故か理事長室だった。

    「…何が?」
    そう言いながらも、理事長の手にはゴルフクラブが握られている。
    明日は久しぶりに旧友と再会するとかで、楽しみにしている様子が
    手にとるように伝わってくる。
    パッティングの練習なんかしちゃって、気分は早くもウキウキだ。
    理事長の仕事は山ほどあるから、こんなに悠長な時間はないはずなのに…

    「ですから、転入生の早乙女さんのことです」
    聡美の言葉と同時に、理事長が打ち込んだ球は、
    吸い込まれていくかのようにホールに沈んだ。
    理事長は、いまの見た?なんて、嬉しそうに歓喜の声をあげる。
    全くといっていいほど、人の話を聴いちゃいない…
    ため息をつきながら、聡美は備え付けの給湯室で
    二人分のコーヒーを淹れてくることにした。

    ゴルフの練習が一段落ついたのか、聡美が戻ってきた時には、
    理事長はすでにソファに腰かけていた。
    「初々しくて、可愛いでしょ?」
    コトン、とカップを置くのと同じくらいのタイミングで、
    彼女は突如口を開いた。

    なんだ、しっかり聴いていたんじゃない…

    誰の話をしているか、聡美がすぐにのみ込めるのは、
    それだけ対象としている人物が特徴的だからだ。
    「初々しいどころか、アレじゃまるで…」
    まるで狼の群れに羊を一匹投入するようなものだ。
    少しだけ話をしてみて、聡美にはすぐ解った。
    早乙女來羽は、ほとんどこの学校の実情を知らない…と。
    そして、その知らないということが、
    今後の学園生活を送る上で決定的な苦労をもたらすに違いない。
    この学園の生活に慣れきっている聡美ですら、
    來羽の苦労を思うと、いまから不憫に感じてしまうのだ。
    「まあ、ご両親も渡航まで時間がなくて焦っていたみたいだし?」
    だから、転入を許可したというのか…

    本来、サ・フォス女学園では高等部での転入はおろか
    入学者も稀少にしか受け入れない。
    それは、一貫したクオリティの高い教育を提供するという目的の他に、
    とある方針が理念として根付いていることに由来するのだが、
    最終面接では、結局のところこの理事長に全権が委ねられる。
    採点基準は、個人によって若干異なるようだが、
    理事長の一存で決まってしまうことだけは確かだ。
    だが、そのことが批判されないのは、彼女が抜擢してきた
    これまでの卒業生たちの功績が物語っているからかもしれない。

    「我が校にも必要なのよ。彼女みたいに、柔軟な人材が」
    意味深な発言とともに、理事長はコーヒーに口をつけた。
    「何かたくらんでらっしゃるんですか…?」
    聡美は恐るおそる、尋ねてみた。
    しかし、理事長はそのことには答えずに、
    代わりに次のような確言を残してデスクへと向かう。
    「早乙女さんは、大丈夫よ。
    彼女なら、きっと上手くやっていけるわ」
    大丈夫な根拠なんて何一つないのに、
    理事長の満足そうな微笑だけで
    何故か聡美はほんの少し安心できた気がした。
引用返信/返信 削除キー/
■4927 / inTopicNo.9)  (6)
□投稿者/ 琉 一般人(8回)-(2007/11/17(Sat) 21:41:39)
    「ねえねえ。早乙女さんって、隣町のドコの高校に通ってたの?」

    途方もなく長く感じられた午前中の授業も終わり、いまは昼休み。
    怒涛の自己紹介から一転、來羽は予想外にも
    クラスメイトに取り囲まれ質問責めに遭っていた。
    「あ、榮高校です…」
    「ああ!聞いたことある〜」
    「えっ、どんな学校なの?」
    「えっとね、全体的に大人しい子が多いんだけど、
    たまにすっごい可愛い女の子がいるんだって!」
    「行きたーい!!」
    キャアキャアと一際騒がしく、少女たちは興奮する。
    その中心を陣取りながらも、何故か蚊帳の外で聞いているような心境の來羽は、
    目まぐるしく変わる彼女たちの話題についていくだけで精一杯だった。
    「誕生日、いつ?」
    「いま、付き合っている人とかいるの?」
    「今度の日曜、空いてる?」
    「好きなタイプって、どういう娘?」
    「携帯のアドレス教えて!」
    「來羽ちゃんって珍しい名前だよね?」

    うっ…

    もともと一度に多くのことを答えられる容量を持ち合わせていない來羽は、
    せめて一つにまとめてから質問してくれないかとオロオロしていた。
    午前中はずっと移動教室の授業だったから、彼女たちは
    溜まっていたムズムズが今になって噴出してしまったというわけだ。

    「じゃあさ、前の学校で付き合っていた彼女って、どういう人だったの?」

    …カノジョ?

    これだけは知りたい、という問いかけは、その場でさらりと流されたが、
    確かにその言葉を含んでいた。
    どういう反応をしたら良いのか、來羽が悩んでいたちょうどその時…
    背後から、急にかぶさってくる人影があった。
    「そんなの決まってるでしょ。
    綺麗で優しくて勉強もできる、私みたいな人よ」
    「わっ」
    突然すぎる衝撃に驚いたというのももちろんあるが、
    羽交い絞めにされてなおも胸元にすっぽりと
    入ってしまうほど背の高さに、來羽はビックリした。
    後ろ向きの体勢からも分かる、お相手の長身。
    「え、ちょっと…」
    「円!!遅かったじゃん!」
    抗議をしようとした來羽の声を遮り、
    クラスメイトたちの関心は皆そちらに流れた。

    …え、何?どうしたの?

    自分自身で綺麗で優しいなんて、どれだけ自信過剰なんだ、と
    そんなことを悪びれもなく言っちゃえる本人の顔を確認しようと
    首だけで振り向いてみると、來羽はその場で固まってしまった。

    な、何だこのとんでもない美少女は…

    例えようのない美しさが、來羽の理想そのものとしてそこに立っていた。
    真っ黒でサラサラの髪に、アイラインで強調する必要のないくらい
    印象的な大きな瞳も同じく黒くて澄んでいる。
    もともと色素が薄くて、おまけに天然パーマのせいでボブにしかできない
    來羽からしたら、羨ましいことこの上ない憧れの純黒だった。
    手足が長いのは想像通りとして、彼女の場合、
    華奢なだけではなく体型のバランスが良い。
    童顔に追い討ちをかけて、幼児体型をコンプレックスに思っている
    來羽と並ぶと、まさに大人と子供。

    この人、本当に同級生?

    朝に自己紹介をした時には、教室に居ただろうか…
    分からないけれど、たぶん居なかったと思う。
    だって、これだけ目立つ美女が座っていたら、
    さすがに鈍感な來羽でも一目で覚えてしまうから。
    彼女の手には、案の定…鞄が握られていた。
    にしても…いまの時間に登校なんて、重役出勤もいいところだ。
    もうすぐ午後の授業が始まるというのに。

    まじまじと顔を凝視していた來羽の視線に気づいたのか、
    彼女はこちら側に再度顔を向けた。
    かなり接近しているはずなのに、全然苦にならないほど
    改めて見ても彫りの深い整った顔である。
    どのくらい見つめていたのだろうか。
    名前も知らない彼女は、長い爪先でそっと來羽の唇をなぞり、
    來羽にだけ聞こえるようこう呟く。
    「あなたの唇、美味しそう…」
    そしてそのまま、彼女は口づけた。
引用返信/返信 削除キー/
■4930 / inTopicNo.10)  楽しみです!
□投稿者/ 紀莉 一般人(1回)-(2007/11/18(Sun) 17:37:25)
    凄く面白いです!
    続きを楽しみに待ってます(・∀・)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■4931 / inTopicNo.11)  とても面白かったです☆
□投稿者/ かよ 一般人(1回)-(2007/11/18(Sun) 20:17:16)
    学園もののお話が好きなので、スラスラと読み終えました♪
    とても面白かったです!!
    お忙しいと思いますが、次回を楽しみにしております(*^∇^*)
    応援しております☆

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■4939 / inTopicNo.12)  紀莉さま
□投稿者/ 琉 一般人(9回)-(2007/11/19(Mon) 16:58:46)
    初めまして。楽しく読んでいただけたなら、何よりです。
    前フリが長くなって、すみません。
    でも、おそらく長編になると思うので、
    最初は特に慎重に書いておきたかったのです。
    まだまだ、全体の登場人物のうち三分の一も出てないので、
    これから盛り上げていきたいです。

引用返信/返信 削除キー/
■4940 / inTopicNo.13)  かよ様
□投稿者/ 琉 一般人(10回)-(2007/11/19(Mon) 17:02:43)
    初めまして。ご意見を伺えて、とても嬉しいです。
    私も学園モノは大好きです。
    舞台が学校というだけで、何故かワクワクしたりします。
    ただ、このお話は個人的な理想が結集されておりますので、
    これでもかというくらい甘々なハーレム物語にするつもりです。
    來羽をはじめ、それぞれの登場人物の交錯する思惑に
    注目していただければ、と思います。

引用返信/返信 削除キー/
■4941 / inTopicNo.14)  (7)
□投稿者/ 琉 一般人(11回)-(2007/11/19(Mon) 21:01:36)
    「気がついた?」

    真っ白な天井がぼんやりと視界に映る。
    天井だけではない。
    壁もカーテンも、身体全体に覆いかぶさるような柔らかい掛け布団も、
    寝ているベッドのシーツまでもが、全て白亜で包まれていた。
    どこの学校でも、こんな空間といえば…保健室に決まっている。

    …保健室?
    私、もしかして…

    倒れてしまったというのか。
    眼が覚めるような驚きに、來羽は反動で慌てて起き上がった。

    「まだ、寝ていなさい」
    ふと、横から制止するのは、白衣を着ている女性。
    もはやお約束のように若くて美しいこの人は、
    どうやらこの学校の保健室の先生のようだ。
    栗色の巻き髪がよく似合っていて、
    涼しげで端正な顔がこちらを眺めている。
    「えっと…」
    「養護教諭の貝原よ」
    美人は、たいてい笑顔も素敵だ。
    晴れやかな微笑みと、彼女が差し出してくれたホットミルクが入った
    温かいマグカップが、いまの來羽には染み入るようだった。

    「お昼ごはんは、ちゃんと食べた?」
    一応の規則なのだそうで、彼女は診断書らしき用紙にペンを走らせる。
    「は、はい…」
    答えながら、來羽はふと昼休みのことを回想してみた。
    今日のお昼は購買で買ったパンを食べて…
    食後にちょうどお手洗いに向かおうと席を立った時に
    複数のクラスメイトに呼び止められたんだった。
    そして、うち一人の質問に躊躇している間に誰かに捕まえられて、
    その後…そのあと……

    ああ、そうだ…

    あの綺麗な女の子にキスされたんだ。
    スローモーションでどんどん彼女の顔が近づくにつれ
    吸い込まれそうな瞳に見とれていると、
    気づけばあっという間に唇を奪われていた。
    朦朧とする意識の中で覚えているのは、
    周りのざわめきたった歓声と美女の素顔、
    そして、つよいとても強力な香りだった。

    カップを持っていない方の手でずっと口元を押さえている
    來羽の異変に気づいたのか、保健女医の先生は両手で頬に触れてきた。
    「大丈夫?熱はないみたいだけど…」
    「あ、平気…です」
    ひんやりとした細長い手で撫でられると、どうしてこうも気持ちが良いのだろう。
    しかし、この顔を覗きこまれる体勢に妙に緊張した來羽は、
    先ほどの口づけを思い出して次第にドキドキしてしまう。
    けれど、あのキス魔(かどうかは分からないが)のような女子高生と違って、
    良識ある大人の教師がそんなことをするはずもなく…
    「大丈夫みたいね」
    來羽の様子に納得したように、すぐ離れてしまった。

    「まったく…あの薬は強いから、すぐにはよせって言ったのに…」
    ボソボソっと独り言を呟きながら、彼女は再び書類に目を通している。
    「え、何ですか?」
    「あ、いや何でもないの…こっちの話。
    それより、早乙女さん。
    あなた、何か忘れ物をしていないかしら?」
    わりと重大なことを言っているような気がしたので、
    來羽は聞き返してみたのに、
    あっさりとこの話題は彼女にかわされてしまった。
    その後、言われたとおりに自分の所持品を確認してみると…
    胸ポケットにあるはずの生徒手帳がなくなっていた。
    「あれっ?嘘、どうして!?」
    かわりに、名刺サイズのメッセージカードらしき代物ばかりが出るわでるわ…
    それはスカートのポケットも同様である。
    差出人は、全てクラスメイトで中身は携帯電話の番号とメールアドレス、
    それからよろしくとの言づけを含んだ内容だった。
    來羽が気を失っている間に、彼女たちは何をちゃっかり渡しているのか。
    「…あらあら、みんな焦っちゃって」
    一人、涼しげな表情を崩さない校医だけは、すでに高みの見物だ。

    しばらくすると、タイムオーバーを告げるかのように
    校医は静かに口開いた。
    「探し物は、これでしょ?」
    ふと、彼女の手元を見ると、確かに彼女は來羽の生徒手帳を握っていた。
    「…え?あれ?なんで…?」
    目を白黒させて驚く來羽をよそに、なおも彼女は説明する。
    「あなたを運んでくれた人が持ってきてくれたのよ。感謝なさい。
    …ダメでしょ?この手帳は、どんな時でも肌身離さず携帯しないと」
    それは気づかなかった。
    でも、気絶している人間がどうやって持ち物を管理できようか。
    まあ、これがないと寮に入れなくなるところだったから、
    いまは何でもありがたい。
    「はい、すみません。ありがとうございます」
    ペコペコと何度もお辞儀をして、來羽はそれを受け取ろうと手を伸ばす。
    だが。
    「本当に危なっかしいわね…」
    次の瞬間、來羽は彼女に押し倒されていた。
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■4960 / inTopicNo.15)  面白いです!
□投稿者/ サナ 一般人(1回)-(2007/11/21(Wed) 08:09:17)
    小説読見ました☆面白くて続きが気になります(>_<)続きもよろしくお願いしますm(__)m

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■4963 / inTopicNo.16)  サナ様
□投稿者/ 琉 一般人(12回)-(2007/11/21(Wed) 15:28:26)
    初めまして。楽しみにしてくださり、
    本当にありがとうございます。
    これから続きを投稿するので、
    よろしくお願いします!

引用返信/返信 削除キー/
■4964 / inTopicNo.17)  (8)
□投稿者/ 琉 一般人(13回)-(2007/11/21(Wed) 15:40:31)
    再びベッドに仰向けになっても、視界いっぱいに拡がるのは
    白い天井…ではなくて何故か先生だった。
    状況がよくのみ込めない。
    生徒手帳を返してもらうはずが、どうしてこうなっているのか。
    ただ、急に寒く感じることから布団が剥ぎ取られたらしいことや、
    両わき腹にかすかな重みを感じることから誰かが上に跨っているらしいことは、
    來羽にも何となく勘で分かった。

    え、なに、どうしたの…?

    あまりにも展開が速すぎて、正直ついていけない。
    そんな來羽の困惑を知ってかしらずか、校医はさらに大胆になっていく。
    照明が彼女で隠れているせいで來羽の顔面を影が覆い、
    長い髪の毛が頬にあたって、そこからは良い匂いがする。
    「あ、あの、先生…」
    これは何の冗談でしょうか、とおどけて聞き返したくても、
    彼女は一切笑ってなどいない。
    「ああ、ごめんなさい。これを返すんだったわね…」
    そう言って、彼女は生徒手帳を來羽の胸ポケットに入れたが、
    そのまま指先は制服をつたって鎖骨の辺りまで撫でるように触れていった。
    「これ、前の学校の制服?」
    などと言いながらも、手を休めたりはしない。
    シュルっと音を立てながら、制服のリボンを引っ張り取ってしまった。
    「セーラー服って良いわよね…」
    感慨深げに呟く彼女を見て、來羽は直感した。
    昼休みに、あの生徒が後ろから転入生と分かって被さってきたのは、
    一目で制服の違いを把握していたからだったのだと。
    「脱がしやすくって」
    最後は囁くように、わざと耳元で話す。
    しかし、それよりも來羽にはプチプチとボタンが外れる
    軽快な音の方が耳に入ってきた。
    「なぁにす…うぅん!?」
    さすがに焦って抗議しようとした來羽だったが、
    その声は校医の唇によって塞がれ言葉になることはなかった。
    本日、二度目のキスだ。
    抵抗しようにも、手が動かない。
    そこで初めて來羽は、自分の両手が縛られていることを知った。
    あろうことか、來羽の両手は頭よりも高く持ち上げられ、
    パイプベッドにさっき取られたネクタイで束ねるようにして
    きつく固定されている。

    「見てるだけで良いと思ったんだけどな…」
    「え?」
    長い間口づけを交わしていたせいで、來羽は息を荒げて
    肩を上下に震わせながら返事する。
    「何でもないわ。一年生が何やら面白そうなことを
    やるって言うから、混ぜてもらおうと思って」
    そのまま、彼女は再度來羽にキスをしてきた。
    「まっ…」
    待ってほしいという來羽の申し出も聞かず、
    校医は性急すぎるほどの勢いで口に吸いついた。
    彼女は何度も來羽の上唇を噛んでは執拗に弄り、
    こちらの様子を楽しんでいるようでもあった。
    「うっん…」
    息ができない苦しさに耐えきれなくなった來羽は、
    反射的に顔を逸らそうと試みるも、そのわずかな隙間から
    彼女は狙い通りとばかりゆっくり舌を侵入させてくる。

    どうしよう、私…女の人とキスしてる

    それも、絶世の美女と。
    絡まる舌のヌルヌルした感触が、どうにも表現できないような
    気持ち良さを醸しだしていた。
    不思議なことに、來羽は禁忌を破る罪悪感よりも
    天にも昇るような快感で満たされていた。
    先ほどの教室では、こんな感覚を味わう前に失神してしまった。
    でも、いまの相手は校医だ。
    さっきまで倒れていた自分が、もはや気絶したフリは使えない。
    「んぅっ…や、やめてください!」
    來羽は最後の力を振り絞って身体をよじりながら抵抗する。
    幸いにも、足だけは自由に動かせたので、
    ジタバタと無造作に揺らし彼女を払いのけることに成功した。
    このままでは、『キケン』だ。
    本能的に身の危険を感じた來羽は、すぐに起きあがって出口を探した。

    この部屋、窓がない…!

引用返信/返信 削除キー/
■4982 / inTopicNo.18)  ★琉さんぇ☆★
□投稿者/ 千春 一般人(1回)-(2007/11/24(Sat) 09:26:59)
    †こんにちは†
    小説面白いです♪♪
    おもしろくて続きが気になる‥‡(゜A`)
    忙しいと思いますが、琉さん続き待ってます。。。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■4986 / inTopicNo.19)  千春さま
□投稿者/ 琉 一般人(14回)-(2007/11/25(Sun) 10:25:10)
    初めまして。感想をお寄せいただき、ありがとうございます。
    面白いとは、私にとって最高の褒め言葉なので
    励みになります。
    まだまだ、お話は急展開が続きますが、
    コツコツ更新していこうと思っていますので、
    さっくりお読みいただけると嬉しいです。

引用返信/返信 削除キー/
■4987 / inTopicNo.20)  (9)
□投稿者/ 琉 一般人(15回)-(2007/11/25(Sun) 16:03:49)
    來羽がカーテンだと思っていたそれは、
    間仕切りに使用されているだけのただの布だった。
    シェルターのようなこの縦長い部屋は、
    奥にある扉以外の出入り口がない。
    それはつまり…事実上の密室を意味している。

    ここ、保健室じゃないの?

    窓がない保健室なんてあるのだろうか。
    それとも、ここは別の…

    「痛っ」
    ふいにピンと張りつめるような鋭い痛みを手首に感じる。
    そういえば、両手は未だ拘束されたままだ。
    手がつかえないと、起きあがるといっても所詮は
    上半身が少しだけ横向きに寝そべるような体勢になれるというだけである。
    ああ、どうして先ほど縛られた数十秒間に気づかなかったんだろう。
    考え事をすると他がおろそかになってしまう來羽は、
    自分で自分を呪いたくなる。
    一番近くの出口から脱出を試みようとするも、
    誰かに助けを呼ぼうにも、それが遥か遠くの彼方に感じて
    來羽は絶望に陥った。

    「あっ」
    首筋に吸いつく唇に、思わず反応してしまう。
    もうダメだ。
    時間切れで校医に追いつかれてしまった。
    吸血鬼に囚われた獲物のように、來羽の身体を震えが襲う。
    彼女は、來羽の関心を惹きつけておいて
    すばやく縛っていたネクタイを外して捨てた。
    代わりに手錠のようなものをはめ、上半身を起こすように持ち上げる。
    さすがは名校医。
    標的となる人物の逆襲に遭っても、すぐに欠点を補ってくる。
    彼女はさらに、何かで湿らせたガーゼのようなハンカチを來羽の口元にあてた。

    あ、コレ…

    來羽の脳裏には、一人の美少女の顔が浮かんだ。
    この香り…彼女にキスされた時のと同じだ。
    途端にビリビリとした痺れが口や鼻から伝わってきて、
    來羽は全身の感覚が麻痺してしまったかのように動けなくなった。

    「一つだけ教えておいてあげる」
    校医は、獲物の背もたれになったような格好のまま、
    後ろから來羽の耳にそっと囁いた。
    「この薬…感覚を奪ってしまう特殊な麻酔薬は、
    私があの黒髪の一年生にプレゼントしたのよ」
    彼女の説明によると、本来これは薄めて使うもので、
    あの少女は濃縮されたまま誤って使用してしまったため
    來羽は気絶したのだと言う。
    「な…えっ?プレゼントって…」
    彼女たちは一体どういう関係なのだろうか。
    強制猥褻とか職権濫用とか抗議すべきことも忘れて、
    來羽は悶々と絡み合う二人の美女の姿を想像した。

    吐息が幾重にも交じり合って、唾液も汗も…その他の体液も全てが滾るように熱い。
    とろけるような愛撫に、舌触りの滑らかな雪のような肌、
    そして時折喘ぐ淫らな声が響く、誰にも邪魔されることのない二人だけの世界…

    ああ、どうしよう…

    眼を閉じても、イメージはなかなか消えてはくれない。
    鳥肌がたつような、でも続きがみたいようなゾクゾクする気持ちを
    膨らませながら、來羽は顔を左右に振った。
    「ただの従妹よ」
    クスクス笑いながら、彼女は再び囁いてくる。
    「あの子は、見た目どおりお嬢様だから、
    滅多にモノを欲しがらない子なんだけど…
    よっぽど気になる相手ができたのね」
    チラリとこちらを見る彼女に、來羽は焦った。
    「わ、私じゃない…ですよ」
    あんな美少女が想いを寄せている相手が自分だなんて、
    とうてい信じられる話ではない。
    同じ町の坂を下ったところにある男子校の生徒の間違いではないか。
    第一、どうして女の子同士で恋愛するのだ。
    おまけに、彼女とはまだ一言くらいしか話していないというのに。

    でも、普通あいさつ代わりに薬を使ってキスしたりする…?

    否定しきれない一筋の疑問にうろたえていると、
    彼女はまた無言で來羽の首に顔を埋めてきた。
    「んっ」
    嗚咽のような敏感な声が來羽の口から漏れる。
    「キスマークはつけないであげる」
    校医は、首の付け根から顎の下までの声帯部分をねっとりと舐めあげる。
    麻痺しているせいで下半身はおろか、上半身までもがいうことをきかない。
    そうこうしているうちにも、彼女はファスナーを下ろし、
    はだけた制服の隙間から手を突っこんできた。
    ひんやりとした指先が這うように、來羽の胸に触れる。
    スリップとブラの上から気配を伺いながら、ゆっくりと擦っていく。
    「んぅ…あっ」
    決して声など出すものかと、必死で堪える來羽の様子は
    校医の加虐性をさらに助長させただけだった。
    「無理しちゃって…」
    冷笑しながら、彼女は來羽の耳たぶを甘噛みした。
    「くっ」
    一際大きく來羽がうねると、彼女は満足そうに微笑んだ。
    「耳も首も…そしてココも。
    感度だけは良好のようね」
    「ハァハァ…か、感度?」
    一瞬、來羽は言っている意味が分からなくなったが、
    すぐに胸元が痛くなり乳首をつままれたことを悟った。
    途端に、体中の危険信号が点滅する。
    「も…もう、やめてください」
    肩で大きく息をしているのに、動悸はちっとも治まらない。
    それどころか、ますます激しくなるのを感じ、
    來羽を複雑な思いが渦巻いた。

    「やめてって…身体は嫌がってないのに?」
    わざと校医は手を休めて、いかにも信じられないというふうに
    大げさに驚いてみせる。
    「…い、嫌がってます!充分」
    來羽は、この日初めて強い抗議の意志を持った眼差しで彼女を睨んだ。
    「…なら、いまから一分間だけ時間をあげるわ。
    この手錠も解いてあげるし、私は何もしない。
    だから、思う存分逃げてごらんなさい」
    その直後、彼女は宣言どおりに施錠された來羽の両手を解放した。
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