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■18100 / 1階層)  こんなはずじゃなかった。─20
□投稿者/ 秋 ちょと常連(65回)-(2007/02/23(Fri) 12:46:28)
    理屈でもない、言葉でもない、咄嗟に取った行動が案外本心だったりするわけで。





    【グランドファンファーレ】





    「私はそれ、わかる気がする」

    保健室から戻ってきて、隣の席の佐保ちゃんに「瑞樹先生の話は難しくてよくわかんないよ」と同意を求めようとしたら、こう返された。


    「意地張ってたら手遅れになるって事じゃない?」

    「手遅れって、何が?」

    「それぐらい自分で考えなさい」

    佐保ちゃんは素っ気なく言い放つ。

    まったく、佐保ちゃんも先生と似たようなもったいぶった物言いをする。
    案外この二人は似た者同士なのかもしれない。

    佐保ちゃんは毛先をいじっていた手を止めて、机に肩肘をつくと私の方に顔を向けた。

    「気になっては、いるんでしょ?」

    「別、に」

    「本当に?」

    じっと真っ直ぐに見つめられ、言葉に詰まる。
    ほら見なさい、と得意げな顔をする佐保ちゃん。
    「原因として思い当たる事はないの?」
    あれだけ蹴ったり頭突きしたり罵声を浴びせたのにめげなかったあの子がこうも突然身を引くなんて何かあったんでしょ、なかなか鋭い事
    を言う。
    私は黙って俯いた。


    原因か、はわからないけれど。
    保健室の一件、あの次の日から馨は私を避けだした。
    不用意な何かをした覚えはない。
    けれど思い当たる事と言ったらその日しかないのだ。
    あんな姿を見せてのこのこ顔を出すのが恥ずかしいのかとも思ったけれど、引っ付き抱きつき蹴られる姿を公衆の面前で晒していた今まで
    の方がよほど恥ずかしい。
    そんなの今更だ。
    それについ抱き締めてしまった私の方こそ、会ったところでどんな顔を見せればいいのかと恥ずかしいというのに。
    今思うとなんて大胆な事をしたのだろうと、己の行動に顔が火照る。


    はぁと溜め息を吐く声が聞こえて。
    顔を上げ、佐保ちゃんの方に視線を向ける。

    「ごちゃごちゃ考えるくらいならこっちから出向けばいいじゃない」

    「何で私が」

    「それが意地張ってるって言ってるの」

    佐保ちゃんは呆れたように私を見た。

    「素直にならないと、本当に手遅れになるわよ」

    「だからそれが意味わかんないってば」

    本当にわかってないのねー、と呆れるを通り越して感嘆の声を上げ、

    「とりあえず本人に会ってみて直接確かめてみたら?」

    淡々とした口調で言う佐保ちゃんに、

    「行かないってば!」

    つい声を荒げて言い返してしまった。
    しん、と場が静まる。
    私が口を開くよりも先に、

    「あっそ」

    だったらもういいわ、と佐保ちゃんはひどく興醒めしたように言い捨てて鞄から文庫本を取り出した。

    あ、落胆させた。
    そう思って何か言い繕おうかと思ったけれども、そもそも私は悪くないじゃん、思い直して一人憤慨する。
    佐保ちゃんにしても瑞樹先生にしても、何で揃いも揃って私をけしかけようとするんだ。

    私はふんと鼻を鳴らして5限の授業の教科書を取り出した。
    授業の始終にさっぱり気付かなかったけれど。




    そして、だ。
    何でこんなところに私が突っ立っているのか。
    自分が不思議でならない。
    知らない内にホームルームまで終わっていて放課後を迎えていた私の午後。
    当番だから保健室に行かなきゃ…、鞄を掴んでぼんやりしながら教室を出たところまでは覚えている。
    問題なのは、今、何故、一年の教室が並ぶ廊下に立っているのか。
    きっと佐保ちゃん達がおかしな事をたくさん言ってきたせいだ。
    そうでなければこんな場所、私には到底関係がない。
    「どうでもいいどうでもいい」と胸の中で何度も繰り返して保健室へと足を向けようとする。
    その廊下の先に、

    ─あ、馨…。

    一年生の階なのだからいる事に不自然な点はないけれど。
    久しぶりに目にした、明るい髪と愛想の良い顔。
    友達だろうか、王子ではない誰かと廊下で立ち話をしている。
    この場でばったり会ってしまってはまるで私から顔を見に来たみたいで、何とも癪だ。
    向こうも取り込み中のようだし、さっさと退散しよう。
    くるりと踵を返──

    ──そうとしたのに。


    何やら楽しげな馨と友達。
    相手のネクタイをよくよく見てみれば学年色は三年生のもの。

    ─上級生のお姉様と仲がよろしいようで。

    思わず皮肉めいた言葉が浮かび、私には関係ないじゃないかと顔をしかめる。
    どんな会話を繰り広げているのか知らないが、相手の言葉に相槌を打って随分とまぁ柔らかく笑む馨。
    相手もそれに気を良くしたのか、馨の薄茶色の髪にそっと手を伸ばした。



    そう、私には関係ないけど。
    何か…むかつく。
    この光景は何だかとっても面白くない。
    思った時には既に私は廊下を駆け出し、一直線に馨へと向かっていた。
    「あ。タキせんぱ──」
    こちらに気付いた馨が声を掛けようとしてきた瞬間、勢いよく踏み切ってそのまま馨に跳び蹴りをする。
    「だっ」見事馨の脇腹に的中し、彼女は短い悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
    「何すんですかぁ…」
    うっすらと涙すら浮かべ、恨めしげに私を見上げる馨。
    それでも苛つきは治まらず、先程の上級生がしたのとは正反対に、ぐしゃぐしゃと乱暴に馨の髪を掻き乱すように撫でつける。
    目をぱちくりと瞬かせる馨の胸倉を両手で掴んで力いっぱい引き寄せて。
    わ、と声を上げながらバランスを崩した馨が私に向かって倒れ込み、それに巻き込まれる形で私は馨に押し潰された。
    いてて、と頭を掻きながら「だいじょぶですか、先輩」と体を起こす馨。
    同じ目線。
    いつもよりも馨の顔がやけに近い。
    へらり、と。馨が笑ったその瞬間。
    私は彼女の頭に手を掛けて強引にこちらへ引っ張ると、
    「あだっ!もーさっきから何なんですか──」
    不満の声を上げる馨を無視してそのまま唇を重ねた。


    廊下に集まり事の次第を傍観していたギャラリーのどよめき。


    口をぽかんと間抜けに開けて呆然とする馨。






    『私は絶対馨を好きにならないよ』


    いつかの私の言葉が脳裏を過る。






    「──…え?えええ?!」

    かーっと顔を紅潮させて混乱する彼女以上に目を白黒させて困惑しているのは多分私だ。


    そっと、自分の唇をなぞって。







    数秒後、私は彼女にきっとこう呟くだろう。




    ─こんなはずじゃなかった。










    【fin】









    Aki presents the last story.

    I leave this place.

    Thanks to all of everybody who read.




    autumn-color@xxne.jp




完結!
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