ビアンエッセイ♪

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■21777 / 親記事)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/03(Fri) 05:06:38)
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■21779 / ResNo.2)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/03(Fri) 06:54:59)
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■21780 / ResNo.3)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/03(Fri) 07:28:43)
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■21781 / ResNo.4)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/03(Fri) 09:16:37)
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■21782 / ResNo.5)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/05(Sun) 07:13:58)
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■21783 / ResNo.6)  (削除)
□投稿者/ -(2014/01/05(Sun) 08:33:59)
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■21750 / 親記事)  首元に三日月
□投稿者/ なな 一般♪(1回)-(2013/06/16(Sun) 01:30:04)
    #1 ハル、出会い

    太陽が沈む放課後。

    学校の門てのは物騒な事が起きない限り、授業中でもいつも開きっぱなしだ。この高校もそうだった。
    いつもながら門を潜り抜けて、ハルはこっそりと例の場所に行く。ここは誰も通らない校舎の裏側で、教員らですら通らない。安心して目的を果たせた。


    …カンッカンッカンッカンッ…

    リズムに乗せて金属と何かがぶつかる音が聞こえてくる。その音の正体はわからないが、聞こえてくるのは決まって音楽室だ。それから…
    「ちがう!何回言えばわかるんだよ!」
    恐らく女性の音楽教師であろう声が、校舎を揺らす勢いで怒鳴った。姿は見た事はないが、よく通る声でいつも生徒を叱っているようだった。そうしてしばらくすると、綺麗な歌声と吹奏楽部の楽器の音が聞こえてくる。カンカンカン…という金属音も聞こえなくなり、音が校舎を包みハルも包んだ。
    この学校の合唱部と吹奏楽部は関東では、ずば抜けてレベルが高い。ハルはこの春自分の通う中学を卒業した後、この学校に進学する気でいた。校舎中に響いている合唱部の美しい歌声につられて、ハルも歌い出した。
    ―あ、なんだか今日はすごく調子が良い。きっと何か素敵な事が起こる、そんな気がしてハルは心を躍らせた。


    …そうしていつの間にか夜を迎えていた。ハッとしてハルが慌てて腕時計を見る
    と、あれから二時間が経過していた。どうやら寝てしまっていたようだ。
    辺りは真っ暗で、校舎の窓から漏れる光にたくさんの虫が集っている。
    夕方になると慌しくなるカラス達の鳴き声も、響き渡る合唱部の歌声ももう聞こえてはこない。
    そこには夜の生暖かい風の音だけが聞こえた。
    ―また寝ちゃったんだ…
    それは今回が初めてではなかった。自分も歌っていた筈なのに、その心地良さに溜まらずつい寝てしまう。溜め息をついてから、ハルがそそくさと立ち上がって退却しようとした時だった

    「こら!」
    「っ…ごめんなさいっ…」
    突然誰かに怒鳴られ、驚いて顔をあげると、ハルの目の前には綺麗な女性が、怪訝な顔をして立っていた。肩に触れる位の長髪ボブ、顔立ちも声も中性的な女性だったが、貫禄が何よりも際立っていた。相手は少し小柄な女性なのに、ハルは彼女から大きな威圧感を感じた。
    「何やってんの」
    「歌を…聞いていました…」
    ―どうしよう…。
    ハルは怖くなって涙目になった。
    「あ、そう。歌が好きなの?」
    「…はい。」
    女性はハルが見当していた事とは全く別の話に触れた。
    「ふ〜ん。さっき歌ってたのはあんた?」
    「…え、あ、そうです。」
    歌声を聞かれていた事に、ハルは顔を赤くした。女性はハルを凝視すると、思い立ったように切り出した。
    「ちょっとおいで」
    「えっ?!」
    「それともこのまま家族を呼ぶ?」
    意地悪そうに不適な笑みで言う女性。 ハルは何も言えず、彼女についていく事にした。スリッパを履いて、校舎内へ一緒に入る。綺麗な作りの校舎は廊下や壁が輝くようにキラキラとしていて、蛍光灯の光を反射させていた為、中は思っていたよりもずっと明るかった。
    女性は先導するように先を歩き、ハルは後ろについていった。
    「あの、いいんですか?」
    「大丈夫。それより何歳?」
    「15です」
    「ふーん。学校はどこ?部活は?」
    「七蔵中学の、コーラス部です」
    「すぐそこだね。部活はやっぱり合唱だったんだ。部活は楽しい?」
    「はい。私にとって音楽は幸せそのものなんです」
    つい乗り気になり蔓延の笑みで話してしまったハルに、女性はやけに頬笑ましそうだった。その表情が余りにも美しかったので、少し照れて顔を赤くしたハルはそれを隠すように俯いた。それから少しして、気になっていた事を聞こうとハルは彼女に話しかけた。
    「あの…何かの先生ですか?」
    「あれ?分かってると思ってた。音楽だよ。で、合唱部と吹奏学部の顧問。」
    「え!じゃあ、いつも生徒に大声で叱っているのは…」
    「あー…あたしだね」
    先生は苦笑した。
    「そうだったんですか。」
    日頃、憧れを抱いていたあの合唱部の顧問でもある音楽の先生だと聞いた瞬間、ハルの心が躍り出した。
    「先生、名前はなんて言うんですか?」
    「んー…」
    先生は少し考えたように黙り込み、しばらくして口を開いた。
    「まどかって呼んで。」
    意外にも下の名前を言われた事にハルは少し驚いた。
    「え…えっと、まどか先生…私は、久吹ハルと言います。」
    「じゃあ、ハルって呼ぶよ。」
    まどかが微笑んでそう言うので、ハルはまた照れてしまった。


    まどかの後ろをついて行って着いた先、そこは音楽室だった。
    「…」
    ハルは言葉に出来ない程の感動に浸った。
    「ハル、早速だけどこの曲はわかる?」
    突然名前で呼ばれ、まどかはピアノの蓋を開けると、椅子には座らずに立ったままピアノで伴奏を弾き始めた。その姿を見たハルは、自分の心臓が''ドキン''と激しく跳ねたのを気にしながら、彼女の弾く伴奏に合わせて歌いだした。
    『心の瞳』という、学校で教わる合唱曲としてもかなり有名な曲だ。まどかはハルが歌ってる最中に伴奏を止め、ピアノから離れた。
    「ハル、もっと喉を開けて。腹使って。」
    まどかの目付きが変わったのがハルにはすぐに分かった。そしてハルのお腹をぐっと強く押した。
    「うっ」
    「なんでもいいから声出して。」
    お腹を強く押されながら声を出す。するとハルの声はまるで、魔法が掛かったように声量を増した。
    「ぅぁ…凄い声出た」
    確かに声楽にも吹奏楽にも腹式呼吸は不可欠であって、学ぶにあたって誰もが身につけなければならないものではあった。無論、ハルも随分前から腹式呼吸については知っていたし、日頃トレーニングも欠かさない。ところが、まどかが押して発せられた声は、自分でも聞いたこともないような深いボリュームのある声だった。ハルは自分の腹式の価値観を覆す程に驚いた。
    「それでもう一回歌ってみて」
    まどかは伴奏を再開した。突然リズムに合わせてカンカンカンッと響かせたのは、まどかの右手に嵌めている指輪がピアノにぶつけるあの音の正体だった。
    ハルの瞳はより一層輝きに満ちた。校舎内にはまどかのピアノの音と、ハルの深く美しい歌声が響く。二人は真っ直ぐに互いを見つめ合い、音楽という至福の時間を堪能した。
    いつも遠くからしか感じれなかったものが、今現実にすぐ目の前にある。ハルはまだ15年という短い人生で、永遠に輝く何かを見つけたような、そんな気がした。

    …暫らくして気が付けば、音楽室の窓から見える空は更に暗くなっていた。
    「あ、やべ。やっちった」
    「なんだか、真っ暗っていうより真っ黒って感じですね」
    「ごめん。教師のくせにこんな時間まで。」
    まどかは申し訳なさそうだった。無理はなかった。なぜなら時計の針は既に22時過ぎを指していたからだった。けれどハルは何も気にしていなかった。時間の事よりも伝えたい事を言った。
    「それよりも先生、私今とても幸せです」
    「…そっか」
    ハルのその言葉を聞いてまどかは安堵したように微笑むと、ハルの頭をポンポン、と撫でるように叩いた。
    「送るよ。」
    そう言ってハルの頭から手を優しく離して、帰りの支度をした。ハルはまどかのその後ろ姿を見つめたまま、また顔を赤くした。

    音楽室の角隅にはどうやらもうひとつ部屋があったようで、まどかはそこにあるドアを開けて中に入っていった。

    ―あの部屋には何があるんだろう。

    それは単なる好奇心だった。そして今が絶好のチャンスでもあった。ハルはそのドアにそーっと近付いて、中にいるまどかに気付かれないよう静かにドアを開けた。入ってすぐ目の前には見た事もない楽器の数々や、大量の楽譜が床に散らばっている。

    ―汚い…

    左側を見ると奥にはデスクがあるようで、まどかはこちらに背を向けて帰り支度をしていた。デスクは日頃から整頓しているとは思えないほど、乱雑に楽譜やら筆記用具が散らばっていた。
    ー忙しくて片付けれないか、元々片付けれない人か。…うん、多分絶対後者だ。
    ハルは一人心の中でクスクスと笑っていた。
    「こら!」
    「ひっ!はぁ、びっくりした…もしかして、気付いていましたか…?」
    背中を向けたままのまどかの声に、ハルは苦笑した。
    「まぁね。背中にも目があるって生徒達からよく言われてるからねぇ」
    ハルは笑った。
    「お待たせ!さぁ、帰ろう。」
    そう言ってハルの前に立つまどか。その姿にハルはキョトンとした。
    「先生…いつもそんな格好なんですか?」
    「うん」
    しれっと言うまどかが羽織った上着は、正に映画に出てくる悪役ヒロインの女性の様だった。細身の、足先まで見えなくなりそうなほどの丈の真っ黒なロングコート。
    「先生…」
    「なに?」
    「とっても格好良いけど、とっても目立ちますし、暑くないですか…?」
    「全然。これ、いいでしょ?」
    まどかは得意気にへへっと、笑った。
    「先生って、なんだか存在が素敵な人ですよね」
    ハルが笑顔でまどかを見つめて言うと、まどかは照れたのを誤魔化すかのように、ハルの頭をクシャクシャと撫でた。二人の明るげな笑い声が、静かな音楽室に響いた。

    しばらくして二人は門を出た。

    「本当に良いんですか?」
    「当たり前でしょ。危ないし、心配だし…それ以前に教師の務めだよ」
    「んー…はい、じゃあお言葉に甘えさせて頂きます」
    ハルとまどか、二人は同じ歩幅で歩き始めた。
    「ハルは、いつから歌う事が好きだった?」
    「うん〜…お母さんが言うには幼稚園の時からだったそうです。」
    「へぇー」
    「うちの幼稚園て少し…というよりズバ抜けて変わった幼稚園だったんですよ。」
    「どんな風に?」
    「私の通っていた幼稚園はキリスト教だったので、先生はみんなシスター様方でした。その長のシスタークレア様はゴスペルがとっても大好きなお方で、そのクレア様ご自身も加入している海外のゴスペル集団を、わざわざ日本の幼稚園に招き、園児達に歌を披露して下さったんです。」
    「それはすごいね。」
    「はい。私はそのクレア様とゴスペルの団体に魅了されました。圧倒させられ、私は釘付けになりました。あの深くパワフルで感情豊かな歌声と、彼女彼らから感じる生命の強い強いエネルギーは、まだ園児だった私の中にある何かを、目覚めさせたんです。」
    「絶対に忘れられないね。ハルの身体が覚えてると思う。」
    「はい、私の音楽への愛の始まりとなりました。」
    「ハルは本当に素敵な経験をしたね。あ、ここ?家。」
    「あ、ここです。」
    話しをしている内にどうやら着いたようだった。
    「まどか先生、今日は園児の時の気持ちがより一層強くなりました。幸せなお時間を頂いて、ありがとうございました。」
    「あはは、丁寧だなぁ。あたしにはタメ口でも、名前だけで呼んでもらっても良いよ。」
    「それは…時間をかけて頑張ってみます。」
    「ははっ!じゃぁ、今日は本当に悪かったね。」
    「全然大丈夫ですよ。お気を付けて帰って下さいね。」
    「ありがと。あ、忘れ物」

    まどかはそう言って、ハルに近寄り両腕を抑えた。突然の状況に、ハルの息がぐっと止まる。お互いの鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの近い距離。まどかは自分の唇を、ハルの耳元へ持っていくと、囁くように小さな声で耳打ちをした。まどかはハルの耳元から唇を離して、ハルの顔を一層近くで見ると、満足そうな顔をして掴んでいた両腕を離し、サっとこちらに背中を見せて、帰路を歩いた。

    「じゃ!」
    背中越しに手をヒラヒラさせて、バイバイをするまどかの後ろ姿を、ぼーっと見つめるハル。
    今日で一番真っ赤な顔をした。



引用返信/返信

▽[全レス2件(ResNo.1-2 表示)]
■21751 / ResNo.1)  Re[1]: 首元に三日月
□投稿者/ なな 一般♪(2回)-(2013/06/16(Sun) 01:32:59)
    #2 ハル、入学式早々

    「ハルー!」
    オレンジ色の屋根をした一軒家の一階から、母がハルを煽る様に呼ぶ。
    「ちょっと待ってー」
    母にそう言うと、ハルは初めて身に纏う制服にうっとりとした。
    ―先生…今、行きます。
    この春、ハルは念願のまどかの居る歌仙高校に入学する事となった。そして今日こそが、大きな第一歩を踏む事となる入学式の当日だった。ハルは鏡に映る自分を見つめて、深く深呼吸した。今日までの道のりは決して平坦なものではなかった。歌仙高校は県の誇る大きな学校で、偏差値は県内トップ、多種の競技やコンクールでは数多くの成績を残している為、当然夢へ向かう第一歩として、他県から歌仙高校を選ぶ受験生も数多く居た。
    ハルはあの日以来、毎日毎日寝る時間を惜しんで猛勉強に明け暮れた。母校の合唱部では自分の力も蓄えた。そしてついに、その努力が形となり、幕を開ける事になる。ハルはなんとも言えない高揚感に、頬笑んだ。
    「もー早くしなさーーい!!」
    母の苛立ちは絶頂に達したようだった。ハルは慌てて部屋を後にした。

    学校に着くと、あの頃毎日見ていた校舎が改めて目の前に大きくそびえ立っていた。門は華々しく飾られ、続々と親族を連れた新入生たちが門をくぐる。
    「ふぅっ…」
    ―今日、先生に会えるかな。一体どんな顔をするだろう…。
    そう思いながら門を見つめた。

    ―来年の春、音楽室で。

    あの日の帰り、耳元で囁かれた言葉を思い出してハルはまた顔を赤くした。母に促され、ハルは足を踏み出し門をくぐる。式が始まる体育館までの距離は近くはなかった。驚く事に、この学校には体育館が第一、第二、第三と三つある。式が始まる第一体育館の中に入り、辺りを見渡すと、そこにいる大勢の人たちが米粒のように小さく見えるほど大きな体育館だった。その様子に、母も驚いた様子で、口をあんぐりと開けたまま視線をあちらこちらへと飛ばした。
    案内人に指導され母と別れたハルは新入生の席へ、母はその後方に並べられた保護者の席へ座った。
    ハルはすぐさま辺りを見渡し、まどかを探したがその姿はなかった。暫らくすると館内に始業式開幕のアナウンスが流れた。それまでがやがやと騒がしかった新入生達も静かになり、会場は無音の状態になる。会場にいる新入生たちの顔に少しの緊張が走った。そして式が始まり全員が起立した時だった。
    「ハルっ」
    真後ろから小さくハルを呼ぶ声がした。振り返るとそこには母校のクラスメイトだった天野ゆいの姿があった。
    「…ゆいちゃん?」
    教壇をチラチラ見ながら、ハルは小さく歓喜の声と驚きの声を挙げた。
    「やっぱりハルだ!同じ高校だったんだ!」
    ゆいは嬉しそうに言った。
    「なんでここに居るの?違う高校合格したでしょ?」
    「ねぇここ、感動の再会だよ?!言う事全然違うでしょ!もう…。まぁ、やっぱり自分の道を追いかけたかったしね。けどここって倍率半端なく高いんだもん、本当にすごく苦労した。」
    「…にしても驚くでしょ。でも、ゆいちゃんと一緒だって分かったら少し不安だった気分も晴れた。」
    そんな他愛のない話をしていると、歌仙高校の学園長が教壇に立ち、マイク越しに話を始めたので、ハルもゆいもここぞと静かに話を聞いた。しばらくして、ハルはまた辺りをキョロキョロとした。ゆいはその様子を見てハルに注意をしかけた時だった。体育館の左端に教員の席があり、その端の席にまどかは居た。
    −あ、いた。
    「あの先生…」
    ゆいがハルの目線の先を見て、話かけようとしたが、ハルはまどかの方に夢中で聞いていない様子だったので、話を後回しにした。
    静かな体育館の中で、ハルの心臓は大音量で弾み始めた。前もにも見たあの黒のコートに相変わらずの風格と威圧感。まどかは一際目立ってはいたが、ハルにはもっと特別輝いて見えた。それからしばらく経つと、ハルに気付いたまどかと目が合った。ハルは息を飲む思いだった。が、まどかはハルに顎で教壇を指し、話を聞け!と叱った様だったので、ハルはキリっとなって教壇を見た。学園長の話が終わると、今度は女生徒が教壇に立った。
    「皆様、ようこそ歌仙高校へ。」
    腰まである長い黒髪で、凛とした佇まいをした歌仙高校の生徒会長。その美しい容姿とは真逆のはっきりとした口調と、少しハスキーな声に入学生たちは皆釘づけだった。
    ―なんか、まどか先生に似てるなぁ。
    生徒会長のその立ち振る舞いや仕草がまどかととても重なったので、ハルはなんだか可笑しくなって苦笑してしまった。
    話をしばらく聞いていると、横から手元へと小さめの書類が配られた。
    「この高校では自分の進む道、又、その視界を広げる為の選択科目など何十種類もあります。皆様の手元に配られた書類には、その種別などが細かく書かれていますので、よく読んだ上で一人ひとり目的の欄にチェックをしてください。チェックは何個でも構いませんが、全てに審査があります。チェックし終わり次第、この式場内に後に用意されるポストへと投降するように。」
    生徒会長は話を終えると、まどかの方をチラっと見た。ハルはその様子を見ていたが、何やらまどかに合図を出したように見えた。それからすぐに、まどかは席から立ち上がり、教壇横の幕の奥へと姿を消した。
    「さて、今から皆様を祝福致します。」
    生徒会長が真横を見て誰かに合図を送ると、式場が少し薄暗くなった。幕が閉じ、これから一体何が起こるのかと入学生たちも保護者たちも騒がしくなった。しばらくして幕が開けたが、暗くて何も見えない。
    「ショータイムの始まりです。それでは、お楽しみください。」
    生徒会長が指を鳴らすと、オレンジ色の光が教壇へと集中して照らされた。そしてそこには数々の楽器を抱える歌仙高校の吹奏楽部の生徒達が約40名、その後ろには合唱部の生徒達が約30名、そしてその中央には後姿のまどかが立っていた。教壇がほんの数分で大きな舞台となったのだ。まどかは振り返り式場を見た。そして自分をじっと見つめるハルを見つめ返して、微笑んだ。
    ハルの心臓がドキン、と跳ねる。
    静寂に満ちた式場の中、まどかが一礼をしこちらに背を向け、指揮棒を使わずに手振りで指揮をする。その瞬間、ハルの息が止まった。吹奏楽部の創大な音色が式場を包んだ、というよりも突き抜けたようだった。その音色には温かみもあった。しばらくして合唱部の歌声が会場を突き抜ける。数多くの入学生達と保護者、更には教師や学園長までもが恍惚の表情を見せた。何よりも、指揮をし出したまどかのその光り輝く姿に、ハルは感動の涙を流した。
    ―すぐそこに、女神がいる。
    恥ずかしくも思える言葉だが、ハルは純粋にそう思った。その女神は荒々しくも優しさに溢れていた。それは園児だった自分がゴスペルと出会って味わったものよりも、ずっと鮮明にずっと明確にハッキリとした感動がハルの心を突き抜けた。




    「ハル」
    さっきまで舞台となっていた教壇をぼーっと見つめるハルに、ゆいは声を掛けた。
    「…あ、ゆいちゃん。」
    「演奏、すごかったね」
    「うん…」
    演奏も終わり、式が終わると生徒達は続々と会場を後にした。皆渡されたチェック用紙を手に持ている。中には会場に残ってチェック用紙と睨めっこをしている者もいた。
    「あの先生、すっごい人気高いよね」
    「え!そうなの?」
    突然思わぬ事を友人から言われ、ハルはぼーっとしていた目を覚ました。
    「初瀬まどか、28歳。日本の音楽教師として名が高く、彼女がいた学校は100%の確率で賞を貰ってる。ついでに告白率が高く、男女問わずかなりの人気を誇る、と。」
    ゆいはポケットから小さなノートを出して、めくりながら言うのでハルはきょとんとした。
    「…何それ」
    「私、新聞部に入って革命を起こす。いずれは名の通る著名人になるわ。」
    「相変わらず…」
    「ハルはもちろん合唱部だもんね」
    「そう。歌は私の総てだから。」
    「さすが…」
    ハル達は思わず声をあげて笑ってしまい、体育館に残り真剣に悩む新入生たちが、ハル達を刺すような目で見た。まどかは会場の隅から密かにハルの様子をクスクス笑って見ていたが、しばらくするとその場を後にした。
    「よし、ハル。行こう!」
    突然ゆいが立ち上がり、ハルの腕を掴んだ。
    「どこ行くの。」
    「校内見学〜」
    「今から?」
    「そうそう」
    そう言われて着いた先は、職員室だった。ハルはゆいと職員室の小窓を覗いた。
    「あれー、どこに居るんだろう」
    「誰か探してるの?」
    「まぁねぇ…」
    ゆいの不可思議な行動にハルはため息をついたが、ゆいのそんな所がハルは面白いと思っていた。ところがここは職員室。ハルはまどかが居ないのを確認すると一人ほっと肩をおろした。
    「そろそろ行かない?」
    「もうちょっとね〜」
    ハルが声を掛けても、ゆいは一向に職員室の小窓を覗くのを止めなかった。
    ―誰を探してるんだろ。
    内心疑問だらけだったが、ハルは気にも留めず、職員室の前の大きな窓から見える校庭を見つめた。舞台に立つまどかの姿が目に焼き付いている。耳の奥で演奏が鳴り止まない。まるで今もまだ目の前で演奏しているかのような気分になって、ハルは嬉しそうだった。数分ほど、ゆいが小窓から職員室を覗き、ハルが校庭をぼーっと見つめていると、突然後ろから声がした。
    「何やってんの。」
    −あ。
    ハルにはその声の主が誰なのか、すぐに分かった。また“ドキン”と心臓が跳ねた。
    「私天野って言います。初瀬先生ですよね!」
    ゆいが目を輝かせて言うと、ハルはゆいの袖を引っ張って止めさせようする。
    「ゆいちゃん、お母さん待ってるから」
    正直、心臓がはち切れそうな上に泣きそうだった。
    まどかはハルのその様子を見てまた笑いそうになったが、一息ついてゆいの肩に手をそっと置いた。
    「天野、情報なら3階の第二会議室に新聞部がいるから直接行くといいよ。あっちには初瀬が思う以上にスケールのでかい話が大量に用意されてるから。」
    ゆいはさっきよりも嬉しそうに目を輝かせると、ありがとうございます、と一礼しハルを置いて2階に伸びる階段へ颯爽と走り出した。
    「え?!どういう事?!」
    まどかはははっと笑うと、背中を向けてゆいの後姿を見るハルを呼んだ。
    「ハル」
    はっとして、ハルはそっとまどかの方へ向き直した。
    「あの約束…」
    ハルがそう言いかけた時、まどかの手がハルの頬を触れた。
    「音楽室で」
    まどかの手の体温と同時に、その言葉を聞いたハルは耳まで顔を真っ赤にした。
    まどかはハルの頬に触れた手を離すと、じゃあ、とあの日の帰りの時のように、背中越しに手をひらひらさせてバイバイをした。

引用返信/返信
■21776 / ResNo.2)  おもしろい!!
□投稿者/ 夢 一般♪(2回)-(2013/11/13(Wed) 16:02:14)
    とても面白いと
    思います。
    また続きを
    見させて下さい。
    心待ちにしてます。

    (携帯)
引用返信/返信

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■21622 / 親記事)  ヤクソク
□投稿者/ 楼 一般♪(2回)-(2012/09/08(Sat) 18:45:59)
    2012/09/08(Sat) 20:24:10 編集(投稿者)





    出会ったきっかけは・・・・確か、大学の入学式の時。










    留年も浪人もすることなく、無事地元の高校を卒業できた。
    1年生の時から憧れていた第一志望の大学にも一発合格、入学決定。
    初めて地元からも親元からも離れ、他県で一人暮らしをすることになった。




    春休み、両親と妹を引き連れて、これからの生活の拠点にお引越し。
    先に運んでおいてもらった段ボールの山を、4人で片付けた。
    部屋を決める時にも訪れたマンションだったけど、やっぱり違った。
    今日からここで生活するんだなあ、って思うと、複雑な気持ちだった。
    わくわく感と、寂しさと、不安と・・・・いろんな感情があった。
    だけど今更実家に帰ることもできなくて、せっせと片付けに精を出した。




    4人で集中して作業をしたおかげで、数時間で片付けは終了。
    近くのレストランで、家族全員で引っ越し祝いのディナーを食べた。
    その後、両親も妹も新幹線でとっとと家に帰っちゃったけど。
    1泊ぐらいしていってもよかったけど、生憎場所がなかったから。
    ホテルに泊まるのも何だかねえ、ってお母さんは笑ってた。




    それから1週間経って、大学で盛大に入学式が行われた。
    事前に買い揃えておいた黒のレディーススーツを身にまとい出席。
    両親は共働き、2人とも仕事で入学式には出席できなかった。
    だから1人で電車に乗って大学に行って、1人で出席した。
    親御さんも来ている人がたくさんいたけど、羨ましくはなかった。
    昔から周りの人に「意外とドライなとこあるよね」って言われる私。
    確かにこういうところがドライだよなあ、って1人で小さく苦笑した。




    やっぱり大学の入学式はすごくて、とにかく人が多かった。
    今まで入学した学校の生徒数は少ない方ではなかったけど、比じゃない。
    人、人、人で、人が多い場所が苦手な私は、うんざりしていた。
    だから入学式が始まるまでの間、ちょっとそこらを散策することに。
    正直電車の時間を間違えてしまって、早めに来ちゃって暇だったから。
    入学式が始まる予定の時間まで、あと数十分の余裕があった。




    人の流れに逆らって歩いて、適当に敷地内をぶらぶら歩いた。
    先輩方の視線が多少は気になったけど、全部無視して歩く。
    オープンキャンパス以来だったから、夏以来の大学の風景だ。
    夏とは違って丁度いいぐらいの気温で、春らしい晴天の日だった。




    携帯を弄りながら適当に歩き回っていると、1人の先輩が視界に映った。
    赤いファイルやら教材らしき本やらを抱えた、1人の女の先輩。
    急いでいるのか、少し多めの荷物を抱えながら走っていた。
    年上だろうけどどこか危なっかしい感じで、なんだか気になる先輩だ。
    つい立ち止まって、その先輩がこちらに走ってくるのを眺める。




    「あっ、えっ、わわわっ!?」



    「!?」




    ・・・・・私が立ち止まった数秒後、その先輩は盛大にすっ転んだ。
    段差も何もない、本来なら転ぶ要素がどこにもない場所で、盛大に、だ。
    ファイルやら本やら荷物が宙に舞い、先輩の身体は前方に大きく傾いていく。
    手ぐらいつけばいいものを、腕を真っ直ぐに伸ばしたまま、顔面から、ドシャッ。
    しかも転んだ後、すぐに起き上がることをせず、しばらくそのまま。




    頭を打って気絶でもしたのかと思い、近くに歩み寄ってみる。
    すると、むくりと顔をあげ、こちらを涙で潤んだ目で見上げてきた。




    (・・・・・可愛い)




    顔面から地面に着地したせいで、額に傷ができ、血が出ていた。
    無言のまま身体を起こし、身体のあちこちをチェックする。
    膝も少し擦りむけていたし、荷物は少し離れた場所に吹っ飛んでいる。
    よくもまああそこまで盛大に転んだものだと、内心感心すらした。




    「・・・・大丈夫ですか?」




    未だに涙目で荷物を拾い上げていた先輩に声をかけた。
    荷物を全部拾い終わると同時に、額から血を出した先輩が振り向く。
    私は無言でカバンから絆創膏を取り出し、先輩に数枚手渡す。
    先輩もきょとんとしたままの顔で無言で受け取った。




    「あ・・・・ありがとう、ございます、」




    私の顔をしっかり見ながらふにゃり、と笑った顔は、可愛らしく見えた。
    私は無言で先輩の小さな手から1枚の絆創膏を抜き取った。
    それにまたきょとんとした先輩の顔は、目が点になっている。




    「・・・・おでこ、血ぃ出てるんで。貼ってあげましょうか?」



    「えっ!?あ、じゃあ・・・・お願いします」




    前髪を両手で押さえ、貼りやすいようにして、目をぎゅっと瞑る。
    目を瞑る必要性なんてどこにもないけど、特につっこまず。
    傷の大きさと絆創膏の大きさが合うか心配したけど、大丈夫だった。
    絆創膏を貼り終えると、先輩は、必死で前髪で隠そうとしていた。
    額に貼るついでに、膝の怪我の所にも絆創膏を貼ってあげた。




    「本当すみません・・・・」



    「いえ、別にこんぐらい・・・・じゃ」




    私は荷物を両手で胸のところで抱えた先輩を置いて、来た道を戻った。
    ちょっと後ろを振り返ってみたい気がしたけど、入学式の会場へと歩く。
    思い出しても笑える転び方をした先輩と、これから関わることはあるだろうか。
    人数が多い学校だし、多分数えるほどしか関われないとは思う。
    というか、これから先、何らかの形で関われたなら、それはすごい。
    私は積極的に何かの役を引き受けたりしないタイプだから余計に。
    サークルには参加する予定だけど、サークルもたくさんある。




    その後、入学式に出席し、その日は徐々に慣れてきた自宅に帰った。





引用返信/返信

▽[全レス8件(ResNo.4-8 表示)]
■21626 / ResNo.4)  
□投稿者/ 楼 一般♪(6回)-(2012/09/08(Sat) 20:34:57)





    それから目まぐるしく月日は過ぎ去り、9月になった。
    残暑は厳しいけど、もうすっかり1人きりでの生活に慣れた。
    あの先輩とは会うことはなく、里香ともあの話をすることもなく。
    講義を受けてサークルの活動に参加してバイトをして家事をこなす。
    そんな単調、時には刺激的な生活をひたすらに繰り返していた。





    「葵ー、いるー?」




    先輩に誘われてラリーをし始めて数分、別の先輩に呼ばれた。
    1つ年上の川上先輩、最初見た時に男性かと思ったけど女性だった。
    そこらへんの男性よりも男前な先輩の呼び名は、“兄貴”。
    でも下の名前は“瑛里”という、ものすごいギャップ。




    「はい、なんですか?」



    「葵に会いたいって人が来てるんだけど・・・・」



    「私に・・・・会いたい人、ですか?」



    「いやー、私も名前知らなくてね・・・・同い年らしいんだけど」



    「先輩と同い年の人なんですか?」



    「そうそう、だけど違う学部らしくて、面識なくってね」




    名前を知らない先輩からの呼び出しだが、一応行ってみることにした。
    待っているという体育館の入り口に出てみると、1人の女性がいた。




    「「あ・・・・・」」




    ・・・・あの、おっちょこちょいで危なっかしい先輩が、立っていた。
    私より1つ年上の先輩だったなんて、今初めて知った先輩が。




    「あのっ・・・・さっき、たまたま体育館にいるの見かけて・・・・」




    どうやら、私が体育館にいたのを、通りすがるついでに見つけたらしく。
    グッドタイミングで体育館に入ろうとした先輩に、呼んでもらったらしい。




    「せめて名前を伝えてあげて下さい・・・・先輩困ってたんで」



    「あっ、ほんとだ・・・・名前言い忘れてた・・・・!」




    ここまでくるとおっちょこちょいというよりは、天然なんだろうか。
    まあ名前を伝えてもらっても、先輩のことが思い浮かぶはずがないけど。




    「で、名前、なんて言うんですか?」



    「えっと、心理学部の、榎原美優っていいます、」




    確かに、文学部の“兄貴”こと瑛里先輩とは、面識がないはずの学部。
    先輩が名前も分からず面識もなくて戸惑うのは、納得できる。
    同じサークルのメンバーでもないし、余計に戸惑ってしまうだろう。




    「あなたは、なんてお名前ですか?」



    「私は法学部の渡部葵です」



    「わあ、賢いんですね・・・・!」




    心の底から感心しました、って感じの顔をした先輩は、子供のよう。
    目をきらきらさせながら見つめてくる先輩は、年上には見えない。
    まあ身長が150センチぐらいだから、見た目からして子供みたいだけど。
    私が165センチぐらいあるから、一層子供みたいに見えてしまう。




    「あの、このあ「みーちゃん・・・・・?」・・・・・え・・・・?」




    私の背後、体育館の中の入り口近くの方から、声がした。
    振り返ってみると、そこには、美穂が立っていた。




    「みーちゃん・・・・・」




    どういうことだ、と混乱する私に、更に混乱が訪れる。




    「美穂ー、いきなりどうしたの・・・・・え・・・・美優・・・・・?」




    笑顔で美穂の元に走ってきた里香の笑顔がふっと消えた。
    そして、驚きの表情を浮かべ、先輩を呼び捨てにして見つめる。




    (なにこのドラマか何かみたいな展開・・・・・)




    「みっちゃん・・・・?りぃ・・・・・?」




    何かが、起きる予感がする・・・・私の胸は、ざわついた。





引用返信/返信
■21627 / ResNo.5)  
□投稿者/ 楼 一般♪(7回)-(2012/09/08(Sat) 20:50:10)





    立ちつくし、お互いを黙り込んだまま見つめあう3人。
    このままでは入口近くだし邪魔だから、中に入るよう促す。
    3人は黙ったまま中に入り、体育館の隅に座り込んだ。
    私も3人と並んで座り込んで、どうしたもんかと考える。




    (・・・・これは、どういうことなんだ・・・・・?)




    3人とも黙ったままで、どうしたらいいか分からない。
    どうやら何かあった関係らしいけど、私はそれを知らない。




    「あのさ・・・・・どういうことなの、これ。説明してくれる?」




    私がこう聞くと、お互い顔を見合わせていたが、里香が口を開いた。




    「前、話したでしょ、双子の話・・・・・私が好きだった方の、片割れの方」




    つまり、里香の忘れられない人の、双子の姉だか妹だかが、先輩だと。
    数年ぶりに突然再会したんだったら、そりゃあ戸惑うのも頷ける。
    美穂は体育座りをしたまま俯き、床をじっと見つめたまま動かない。




    「で・・・・・美穂と先輩は?」



    「私とみっちゃんは・・・・・昔、付き合ってたの・・・・・」



    「つまりは、元カノ?」




    里香の忘れられない人の双子の片割れは、美穂の元恋人で、3人が再会。
    なんとまあややこしく波乱が起こってしまいそうな展開なんだろうか。
    それに挟まれてしまった私は、これからを想像して頭を抱えた。




    「とりあえずさ・・・・場所移動しない?」




    何事だと注目を浴び始めたのもあり、3人を再度促して体育館を出る。
    そして私と里香と美穂は着替えを済ませ、4人で駅前のカフェに向かった。
    その途中でも誰もしゃべらず、あまりおしゃべりではない私はまた困っていた。
    こういう時に場を盛り上げてくれるのは里香だけど、今は無理そうだ。





    私たち4人はきまずい雰囲気のまま、明るいカフェの1番奥のテーブルへ。
    ・・・・・空はオレンジ色に染まって、そろそろ夜を迎えそうだった。





引用返信/返信
■21628 / ResNo.6)  
□投稿者/ 楼 一般♪(8回)-(2012/09/08(Sat) 22:22:11)




    それぞれ飲み物ぐらいは、と飲み物を注文してからの話は、こうだ。










    里香と離れ離れになった先輩の片割れ、亜優さんは、しばらくふさぎ込んだ。
    先輩は必死で亜優さんを慰め、支え、長い月日を経て元気を取り戻した。
    先輩と亜優さんは母親と、弟さんは父親と一緒に暮らしていたという。




    2人で一緒に地元の高校に進学し、大学を目指した。
    しかし亜優さんは途中で志望を変更、専門学校に入学したらしい。
    亜優さんは今は他県の専門学校でエステの技術を学んでいる。
    それでも先輩とは1か月に1回は会っているとのことだ。










    そんな先輩が美穂と出会ったのは、中学校生活が残りわずかな時。
    同じ部活に所属していて仲が良かった美穂と、連絡先を交換。
    それからメールのやり取りや電話のやり取りが始まった。
    休みには一緒に遊んだり泊まりに行ったり来たりする仲になった。
    そして先輩が高校に入学する前に・・・・付き合い始めた。
    だけど忙しさゆえのすれ違いと先輩の気持ちが冷めたのが原因で破局。
    2人は別々の高校に進学して、別れてからは会っていなかった。










    「まさかこんなことになるなんて・・・・・同じ大学なんて・・・・・」




    紅茶にミルクとシロップを入れた先輩は、それをゆっくりかき混ぜた。
    里香も美穂も、無言でココアと抹茶オレを喉に流し込んだ。
    私はコーヒーを飲むのも忘れ、どうしようかと考えを巡らせていた。
    でも、何も思い浮かばない、まあある意味当たり前かもしれない。




    「あの・・・・これから、どうするの?」




    最初に口を開いたのは、里香だった。




    「私たちはきまずかったりするけど、葵は関係ないし・・・・」



    「そうだよね、葵は関係ないよね・・・・」




    1番気まずいのは、元の関係が恋人同士だった、先輩と美穂だ。
    里香も里香で戸惑うかもしれないが、先輩と美穂の方が気まずいだろう。
    先輩が亜優さんとやらだったら、里香も気まずいかもしれないけど。




    「まあ私はとりあえず、重い空気にならなければ構わないです」




    そうは言ったものの、果たしてその願いが実現するのだろうか?
    しばらくは特に先輩と美穂が気まずいだろうから。




    「・・・・・分かった。努力はする」




    美穂はそう言ってくれたけど、私の気持ちはいまいちなままだ。





    その日は結局、特に何も変化がないまま、解散した。





引用返信/返信
■21648 / ResNo.7)  楼さんへ
□投稿者/ nico 一般♪(1回)-(2012/09/26(Wed) 05:39:23)
    面白いです(>∀<)

    続きが気になりますので
    是非ともお願いします!!


    (携帯)
引用返信/返信
■21775 / ResNo.8)  Re[1]: ヤクソク
□投稿者/ 夢 一般♪(1回)-(2013/11/12(Tue) 23:11:23)
    面白いです!!

    ちなみに、この名前は適当に付けられましたか?
    って聞くのは、年上の知り合いと同姓同名なので…。
    宜しくお願い致します。
引用返信/返信

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■21773 / 親記事)  青い空の白い雲 第一話
□投稿者/ 左眼 一般♪(1回)-(2013/10/19(Sat) 12:06:20)
    第一話
     水野さんは、私より10歳以上年上で、20cmぐらい背が低く、30kgは体重が軽い。
     体型がかけ離れているだけでなく、彼女は私とは全く別の世界で暮らしていた。
     初めて出会ったのはスポーツジムの更衣室だった。工事現場のバイトの帰りに、ジムに寄った私は作業服のままだった。
     水野さんは、水着に着替えている途中で、私を見てギョッとしたらしい。作業服姿で身長が180cmの私を見て、男が女子更衣室に侵入してきたと思ったのだ。
     体を隠そうと、半裸の状態でしゃがみこんだ。
     誤解を解こうと、あわてて彼女に近づいた時、一目できれいな人だと分かった。
    透き通るような白い肌と、サラサラのロングヘア、大きな瞳。何よりも線が細い。 見慣れた柔道部の女子達とは全然違う。
     両手で隠した胸を上から覗きこむ恰好になった。体は細いのに、胸は私より大きい。
    「大丈夫、私、これでも女です」と言いかけた時、腹部に痛みと衝撃を感じた。そのまま倒れ、意識が薄れていく。
     気が付いた時は、倒れたままの場所で上からバスタオルを掛けられて寝ていた。
     水野さんが、下着姿のままひざまずいて、私の片手を両手で握っていた。私の目が開いたのに気付くと、泣きだしそうな顔で謝り始めた。
    「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私、男の人に襲われると思って、あなたにスタンガンを使ってしまったの。痛かったでしょう、本当にごめんなさい」
     気の毒になるほど、狼狽し、謝り続ける美女を見て、腹は立たずに、逆に申し訳ない気持ちになった。
    「こちらこそ、怖い思いをさせてしまいました。すいませんでした」
     ゆっくり立ち上がってみたが大丈夫、気分も悪くないし痛みも軽くなっていた。
    「女の子を男と間違うなんて。ごめんね。大丈夫?痛くない?」
    「本当になんともないです。男みたいな恰好をしていた私も悪いので、気にしないでください」
    「そう言ってもらえると」
     少し落ち着いて、自分がブラとショーツだけの姿のままでいる事に気が付いたらしい。顔を少し赤らめて、私からバスタオルを受け取る。
    「学生さんよね。せめてお詫びにお茶だけでもご馳走させて」
     バスタオルで体を隠しながら、両手を合わせてくる。
     断るのも失礼な気がして、トレーニングが終わる時間に、ジムのロビーで待ち合わせすることにした。
     いつも通りの筋トレを終えて、ロビーに行くと水野さんがすでに待っていた。私を見て、手を小さく振ってくれる。
     ジムを出て、二人で近くのスタバに入った。
    「遠慮しないで」と言われ、私はベーコンやサラダを挟んだサンドイッチを二つと、ココアを、彼女はカフェラテを選び席に着いた。
     向かい合って座ると、あらためてきれいな女性だと分かる。高価な装いではないのに、着こなしがうまく、洗練されている。
     作業服姿で化粧もしていない、自分とは、違い過ぎている。でも、そんな私を、彼女は眩しそうに見上げて、いろいろと話しかけてくれた。
    「F大の柔道部員ってすごいよね。でも、いつもその恰好では、女の子としては、問題あるかも」自己紹介をしあってすぐに、微笑みながら、言われてしまった。
    「いいえ。普段はジャージを着ています」弁解するつもりで言うと「それも、問題あり」と楽しそうに笑う。会話が弾んできて、嬉しくなった。
     もともと、口下手で人見知りする方なので、こんな綺麗なお姉さんと、初対面で楽しく会話できるなんて、高校生の時、県大会で優勝して以来の快挙だと思った。
     オリンピックの強化選手を目指して練習している事、父が柔道の道場を続けているが、少子化の影響もあって経営が苦しい事、柔道部の合宿所に住み込んで下宿代を節約している事、奨学金とバイトで何とか生活している事など、いつのまにか、初対面の彼女にしゃべり続けていた。
     水野さんは聞き上手だった。自分の事は話さずに、私がしゃべり、サンドイッチを数口でたいらげるのを、優しい表情で見ていた。
    「うちの子も、あなたみたいに、パクパク食べてくれるといいのだけど」
    「えっ。お子さんがいるのですか?」
    私とそれ程年齢が違わないと思っていたので少し驚いた声になった。
    「うん。小学五年だけど、食が細くてね」
     それから彼女が自分の事を話し始めた。水野さんは、モデルの仕事をしているという。どおりできれいなはずだ。
    「30過ぎると、仕事のえり好みができなくてね。あなたの考えているような、モデルのお仕事じゃないかもしれないけど」
     水野さんが、あわてて言い添える。小学5年の厚志君との二人暮らしなので、仕事で遅くなる時がつらいと、ため息をついた。
    「ご主人は?」と訊いてしまってすぐに後悔した。水野さんが困った顔になる。
    「ご、ごめんなさい。私余計な事聞いちゃいました」
    「いいの。気にしないで。私、今はシングルなの」
     また、失敗しちゃった。顔が赤くなるのが分かりうつむいてしまう。
     短い沈黙の後、クスクスと笑う声がして目を上げると水野さんが優しい顔で笑っていた。
    「本当に大丈夫。気にしないで。空ちゃんは、気は優しくて力持ちタイプね」
     今度は、私が少し傷つく。
     いままでに好きになった女の子達が、私を褒めてくれた言葉を思い出してしてしまった。
    「私の方こそ何か嫌な事言ってしまったみたい。ごめんね」
     私の反応を見て、心配そうに覗き込む。
     自分でも呆れるほどに単純。水野さんが心配してくれるだけでまた嬉しくなる。
    「お仕事で遅くなる時、お子さんの相手やお世話をさせて下さい。私子供の相手をするのが趣味です」
     本当は、子供の相手は苦手だった。
     水野さんと、これっきりになるのが怖くて思わず言ってしまった。
    「空ちゃん、本当におもしろい。お友達になれて嬉しいわ」
     水野さんが飛び切りの笑顔で言ってくれた。

引用返信/返信

▽[全レス1件(ResNo.1-1 表示)]
■21774 / ResNo.1)  青い空の白い雲 第二話
□投稿者/ 左眼 一般♪(2回)-(2013/10/25(Fri) 14:41:55)
    第二話
     水野さんとは、メールの交換だけでなく次に会う約束までした。
     今度の木曜日、仕事で遅くなる日、厚志君と夕食を一緒に食べて欲しいと頼まれたのだ。
    「一人で、晩御飯を食べさせるのが可哀想で。私が帰るまで、相手をしてくれると助かるわ」
    「喜んで」
    「本当?晩御飯だけで、バイト代もだせないけど」
    「嬉しい、水野さんのお料理が食べられるなんて」
    「あんまり期待しないでね」
     別れ際の会話を思い出して、にんまりした。
     でも、これ以上の期待はしないでおこうと自分をいさめる事も忘れない。
     今まで、何度か悲しい思いをした。
     きれいで、優しい、素敵な年上の女性。
     お友達、と言ってもらっただけで、満足だ。大満足、のはずだ。
     約束の日、スマホのナビに、教えてもらった住所を入力して自転車に乗った。
     小さな公園の近くに、水野さんが住むマンションを見つける。
     モデルさんが住むマンション、と想像していたのとは違う、古びた外観だった。
     マンションというより、アパートに近い。
     インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開き水野さんが、顔を出した。
    「いらっしゃい、どうぞ中に入って」
     部屋の中は清潔で整頓されている。
     カレーのいい匂いがして、テーブルの上に二人分の夕食の用意がされていた。
     水野さんは、仕事に出かける支度を済ませていた。
     完璧なメイクでモデルの顔になっているが、大きな瞳は優しいままだ。
    「カレーを作ったの。いっぱい食べてね。厚志、ご挨拶しなさい」
     母親の後ろから、厚志君がはにかんだ表情で私を見た。
    「こんにちは。水野厚志といいます。よろしくお願いします」
     早口で言うと俯いてしまう。
     母親に教えられたセリフを、棒読みしたみたいだ。
     女の子の様な可愛い顔を少し赤らめている。
    「こちらこそ、植野空です。うわのそら、じゃないよ」
     厚志君はきょとんとした顔をしているが、水野さんが楽しそうに笑う。
    「厚志にはちょっと難しいかも。でも本当に助かるわ。あまり遅くなるようなら、先に帰ってくれてもいいからね」
    「大丈夫です。お仕事がんばってください」
    「ありがとう。行ってきます」
     水野さんが出かけて、厚志君と二人だけになる。
     二人で、おしゃべりしながらカレーを食べ始めた。
     すぐに、厚志君が繊細で優しい男の子だと分かった。
     母親似の顔立ちで、大きな瞳が印象的だ。
    「お姉ちゃん、柔道強い?」
    「強くなるため練習しているけど、柔道に興味ある?」
    「うん。教えてくれる?」
    「お安い御用。弟子にしてあげてもいいわ」
     少し意外な気がした。線の細い大人しい男の子だ。
     格闘技に興味を持つタイプではない。
    「誰か、投げ飛ばしたい相手がいるの?」
     冗談めかして訊いてみたら、俯いてしまった。
    「いいわ。男の子だからね。いろいろあるよね」
    「うん」
     顔を上げて大きな瞳でわたしの細い目を見つめる。
    「よし、ご飯食べたらさっそく、練習しようか」
    「はい」
     大学の道場まで、自転車で行ける距離だ。
     カレーを食べた後、厚志君を自転車の後部座席に乗せ、道場に向かった。
     自転車の二人乗りは、初めてという厚志君は嬉しそうに私の腰にしがみついてきた。
     背中が温かく、自分も嬉しくなってきた。

引用返信/返信

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■21759 / 親記事)  純白の花嫁
□投稿者/ シロ 一般♪(2回)-(2013/09/23(Mon) 06:45:11)



    ―――――ああ、これで一体何度目かしら。
    そんな風な思いが頭をもたげずにはいられない。




    『ただいまご紹介に預かりました、佐々木と申します。
     私は新婦である里奈さんとは小学生の頃からの友人で・・・』




    折角の友人代表のスピーチも右から左へと流れ、内容が頭に入ってこない。
    白とピンクを基調に飾られた室内も、テーブルの上の生花も、全てが夢のよう。




    高砂で、微笑みを浮かべながら友人のスピーチを聞く新郎新婦の方へ目をやる。
    2人とも性格がよく、人望が厚いようで、結構な人数が集まっている。
    招待客も皆いい人そうで、2人はきっと幸せな夫婦生活が送れるだろうと思った。




    (里奈・・・・・・。)




    眩しいほどの純白のウエディングドレスで身を包んでいる、美しい新婦。
    いつもよりも少しだけ濃いメイクをして、幸せそうな表情を浮かべている。
    隣の白いタキシードを身にまとった新郎も、幸せそうに座っている。




    友人代表のスピーチが終わり、会場が拍手の音でいっぱいになった時。
    私は今日の主役である里奈との出会いを、思い出していた―――――



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▽[全レス12件(ResNo.8-12 表示)]
■21768 / ResNo.8)  返信
□投稿者/ シロ 一般♪(10回)-(2013/09/24(Tue) 04:18:25)



    まる様


    一気に読んで頂いたとのことで、感想ありがとうございます。
    思いつきで一気に7話分を更新した作品ですが、お褒め頂き恐縮です。
    最後までこの作品の行方を見守って頂けたら嬉しいです。



    作者・シロ



引用返信/返信
■21769 / ResNo.9)  
□投稿者/ シロ 一般♪(11回)-(2013/09/24(Tue) 04:55:25)



    20分ぐらいでシャワールームから出てきた明美は、スキンケアを始めた。
    私も明美ももう若くはなく、既に20代後半の世代だ、ケアには気を遣う。




    化粧水や乳液を肌に叩き込む明美を横目に、私もシャワールームへ入った。
    ツインルームだからなのか、シャワールームも心なしか広く感じる広さだった。
    久しぶりに着たドレスを脱ぎ、軽く畳んで棚にしまうと、カーテンを閉める。
    そして指先で確認しながら少し熱めのお湯になるように調節し、体を濡らした。
    緊張とフォーマルな衣装で固まっていた体が、芯からほぐれていくようだ。




    俯いて髪の毛も濡らすと、アメニティのシャンプーで頭を泡で包み込む。
    シャンプーは普段自分が使っているメーカーのものではないが、いい匂いがする。
    リンスインシャンプーらしいので、泡を流すと軽く水を切り、今度は体を洗う。
    ボディーソープもアメニティとして置いてあったものだが、いい匂いだった。
    シャンプー同様泡立ちがよく、何だか幸せな気分になっていくのを感じた。
    最後に持ってきた洗顔剤でメイクを落として、ようやく全身がさっぱりした。




    明美と同じぐらいの時間をかけてシャワールームを出ると、明美はベッドにいた。
    最近流行りの番組を見ながら、時々楽しげな笑い声を1人であげている。
    時々聞こえる明美の笑い声を聞きながら、ドライヤーで髪を乾かしていく。
    そして明美と同じく化粧水と乳液を肌に叩き込み、ようやくベッドに腰掛けた。




    「今何の番組をしてるの?」



    「え、玲奈、この番組知らないの!?」



    「最近全然テレビ見ないから分かんない」




    明美が説明してくれたものの、私からすれば興味をそそられない内容だった。
    再び番組に夢中になる明美に多少呆れながらも、私はデジカメの電源を入れる。
    そこには、今日撮ったばかりの、新婦姿の里奈の写真が何枚も並んでいた。
    満面の笑みを浮かべる姿や、新郎と一緒にケーキに入刀しようとしているところ。
    勿論、新郎の写真も撮ったし、久しぶりに会った友人や知人達も写っている。
    しかし気付かない間に、カメラのレンズは、里奈の姿ばかりを収めていた。




    (これじゃあまるで、未練たらたらの女のよう―――――)




    里奈とは、里奈が大学を卒業してから、たまに連絡を取り合うぐらいだった。
    私は6年間は大学に通わなければならなかったし、医学部とだけあって忙しい。
    里奈も実習や課題に追われていたらしく、自然消滅のようになっていた。
    ふと思い出した時に、近状を尋ねたり、報告したりする程度の関係になった。




    とは言っても同じ大学の同じサークルで活動をした先輩と後輩の仲だ。
    疎遠になっていたわけでも何でもない私を結婚式に招くのは、至って通常。
    見送りの時に、すぐそこの喉まで出てきていた質問を、もう1度自分に問う。




    (里奈は私のことを、どう思っていたんだろうか・・・)




    恋人だろうか、友人だろうか、それともただの先輩だろうか、知人だろうか。
    それは里奈に聞かなければ永遠に分からないが、私は聞く勇気を持っていない。
    聞いて気まずい関係になるよりも、今までのような関係を保っていたいのだ。
    私は明美に勘付かれない程度に深く深呼吸をし、ベッドの上に寝転んだ。
    明美は依然番組に夢中のようで、1人でテレビを見ながら楽しそうにしている。




    壁にかけられている時計を遠目に見ると、とっくに22時を過ぎていた。
    明美は明日は1日休みらしいが、医者である私は午後からは仕事の予定だ。
    そこまでデリケートでもないし疲れているので、今日はこのまま眠れるだろう。




    きちんとベッドに潜り込み、携帯のアラームをセットすると、そっと目を閉じた。



引用返信/返信
■21770 / ResNo.10)  
□投稿者/ シロ 一般♪(12回)-(2013/09/24(Tue) 05:16:40)



    明美が番組を見終わり、テレビを消すと、玲奈はもう眠りに就いた後だった。
    確か明日は午後から勤務予定だと言っていたから、早めに寝たのだろう。
    長い付き合いの明美にでさえ気を遣うところは、玲奈の長所であり短所だ。




    大学1年生の時、共通の知人を介して知り合った2人は、友人歴が2桁になる。
    明美が卒業して幼稚園教諭として働き始めた後も、玲奈とは頻繁に会っていた。
    というより、玲奈は無理しがちなところがあり、明美が世話を焼いていた。
    レポートや論文に追われて録に食事も摂らず、目の下にクマをつくって過ごす。
    そんな玲奈に軽食を差し入れ、少しは休憩するように促すのが明美の役目だ。




    幸い、勤務している幼稚園は土日が休みのため、週末には玲奈の家へと行った。
    そして彼女から預かった合鍵で入り、玲奈の安否を確認して世話を焼く。
    玲奈も無事卒業して医師として病院に勤務しているが、性格は変わっていない。




    (本当は、辛いんでしょ?)




    本当は、玲奈は里奈のことを本人が思っている以上に想っていたのだと思う。
    パッと見は普段の玲奈だが、玲奈の友達として長い付き合いのある明美は分かる。
    里奈を見る時の、切なそうで辛そうで悲しそうで寂しそうな、玲奈の目―――――
    スピーチの時も上の空でいたような気がして、少しだけ玲奈が心配だ。




    (だけど・・・)




    だけど、もう玲奈も立派な大人の女性だ、自分で自分のことはできるだろう。
    ただでさえ、他人に自分の領域に土足で踏み込まれることを嫌う玲奈のことだ。
    明美という人間が聞いても、きっと何も答えてはくれないのは分かりきっている。
    玲奈に明美がしてやれることは、ただ玲奈のことを見守ることだけだ。




    明美は玲奈のことを大切に思い、最高の友人だと思っているし、愛しいと思う。
    しかしそれは人間として、友人としてであり、決して恋人としてではない。
    それは明美1人だけのことではなく、玲奈にも当てはまることである。




    だから、明美が眠る玲奈の頬に唇で軽く触れたのは、何の意味もないことだ。
    明美は昔から眠る玲奈の頬にキスをする、すると玲奈は軽く身じろぐのだ。
    しかし次の日には必ず、よく眠れた、そうやって玲奈は満足げに微笑む。
    これは玲奈には知られていない、玲奈だけのための明美のおまじないだった。




    (玲奈・・・玲奈・・・好き・・・大好きだよ・・・)




    今日も玲奈は明美からのキスで左側に寝返りを打ってしまい、明美に背を向ける。
    すやすやと眠る玲奈に安堵の溜め息をついた明美は、枕元のランプをつけた。
    そしてリモコンで部屋の電気を消し、自分もアラームをセットして目を閉じる。
    脳裏には、綺麗に着飾ったフォーマルな玲奈と、綺麗な純白の花嫁姿の里奈。
    明美にとっては2人とも大切な人だが、大切の度合いが大きく違う人でもある。




    (玲奈・・・好き・・・)



引用返信/返信
■21771 / ResNo.11)  10
□投稿者/ シロ 一般♪(13回)-(2013/09/24(Tue) 19:15:00)



    次の日の早朝、同時に鳴ったアラームの音楽が、騒がしい朝を演出する。
    私は自分の分のアラームを止め、ついでに明美の分のアラームも止めた。
    明美もいかにも眠たそうな顔で目を擦って起き上がり、ぼうっとしている。




    「・・・おはよう」



    「ん〜・・・玲奈ぁ?おはよ〜・・・」



    「早く顔洗って着替えて。朝ご飯に遅れる」



    「ふぁ〜い・・・」




    おぼつかない足取りで洗面所に消える明美を見送って、ベッドから降りる。
    そして両方のベッドのシーツを綺麗に整えると、荷物の再確認をする。
    部屋を軽く見渡したが、私も明美も特に忘れ物をしているわけではなさそうだ。
    旅行カバンのファスナーを閉め終わった時、明美が洗面所から出てきた。
    先程よりもすっきりした顔をして、今度は着替えに取り掛かっている。




    私も洗面所に行って冷たい水で顔を洗うと、さっぱりした気分になった。
    柔らかい真っ白なタオルで顔を拭いて出ると、明美は着替え終わりそうだった。
    黒いシンプルなワンピース姿の明美は、ジーンズのシャツを羽織っている。
    シャツの裾を結ぶと、髪の毛をくしでとき、軽くまとめて身なりの確認をする。
    私も黒いシンプルなレディースのパンツスーツに着替え、髪の毛をとく。




    「玲奈、早くご飯食べに行こ!」




    時計を見ると、針は朝ご飯のバイキングが始まる6時の5分前を指していた。
    ここは7階だし、そろそろ1階の食堂に降りてもいいぐらいの時間だった。
    玲奈は身なりの確認をしてから、薄い部屋のカードキーを手に取った。




    「じゃあ、行こうか」



    「新幹線の時間、何時だっけ?」



    「えーっと・・・8時過ぎ」



    「じゃあそこまで急いで食べなくても大丈夫だね!」




    朝から機嫌がいい明美を先に部屋から出し、明美に続くように私は部屋を出た。



引用返信/返信
■21772 / ResNo.12)  Re[10]: 10
□投稿者/ まる 一般♪(3回)-(2013/09/24(Tue) 23:27:18)
    返信ありがとうございました。 ^^

    日常、どこにでもありそうな場面の中で進んでいくお話だから
    親しみながら読ませていただいています。

    洋服や表情なども細かく描写されているのでイメージもしやすいですね。。

    これからの展開が楽しみです。^^

    応援しています。

引用返信/返信

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