■21188 / ResNo.25) |
Re[13]: 恋唄 XV
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□投稿者/ sakura 一般♪(4回)-(2008/12/05(Fri) 00:13:56)
| インターホンを鳴らす指が震えていた。 このホテルまでのタクシーでも、この階までのエレベーターでも、この部屋までの廊下でも 頭の中で、同じ台詞を何回も何十回も繰り返していた。 まるで幼子が怒られた時の言い訳を練習するように。
私の気持ちとは裏腹な、軽やかな音が鳴り、まるで立って待っていたんじゃないかと思うくらいの早さで、ドアが開いた。 「サイさん・・・この間は・・・。」 言いかけた言葉を遮るように、繰り返した台詞が飛び出した。 「ヒガキ様、ご指名ありがとうございます。」 少し驚き、目を伏せ、美佐子さんは私を部屋の中へ招き入れた。
「ヒガキ様、今日はどのように・・・。」 「この間はごめんなさい。」 今度は美佐子さんが私の言葉を遮った。 「いえ、大丈夫ですよ。全く問題ありません。」 美佐子さんはうつむいたまま、私の言葉を聞いてないかのように続けた。 「私、サイさんといると、何だか安心してしまって・・・。」 「本当に大丈夫ですから。忘れてくださって結構ですよ。」 少しイライラしてきた。 美佐子さんのペースにはまってしまいそうだった。
「でも私、あれからずっと・・・気になって・・・仕方なくて・・・。」 美佐子さんは顔を上げない。 華奢な彼女がますます小さく見えるのに、何か決意のような強いオーラが感じ取れて焦る。 「ですから・・・」 「私・・・、私、サイさんに嫌われたらと・・・。」 美佐子さんが顔を上げた瞬間に、私は彼女の口を塞いだ。
唇で・・・。
驚いた美佐子さんは目を見開いたまま。 体は棒のようにまっすぐ、固まっていた。 どのくらい重ねていただろう・・・。 ほんの数秒だったかもしれない。
美佐子さんに突き飛ばされ、後ろに2,3歩下がった。 「サ・・・サイさん・・・」 声が震えている。 私は美佐子さんに追い討ちをかけるように、用意していた台詞を浴びせた。 「ヒガキ様。手前どものクラブは元々こういうものです。私はお金を頂き、お客様にご奉仕する。そのご奉仕も色々で・・・。」 「知ってるわ!」
言いかけた私を、また美佐子さんが制した。 今までに聞いた事のない大きな声で。 「・・・全部谷口さんから聞きました。だから・・・知っています。」 「・・・でしたら、話は早い。ヒガキ様には不向きなクラブです。」 はらはらと、美佐子さんの瞳から涙がこぼれた。 美佐子さんは、その涙を拭うことなく、今度はまっすぐ私を見つめた。 「初めてなんです・・・。」 言葉が出ない。 彼女の瞳に射竦められて、今度は私が棒のように直立不動になってしまった。 「こんなに・・・誰かの傍にいて安心したのとか・・・こんなに、誰かが心を占めることとか・・・。私・・・サイさんの事が・・・」
ようやく体が動いたと思ったら、美佐子さんを抱きしめていた。 「・・・言わないでください・・・・・」 搾り出すように、私の口から言葉が漏れる。 「私も・・・・同じです・・・から・・・。」
何故か、私の頬にも熱いものがつたい落ちた。
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