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貴女の官能的なビアンエッセイやノベル
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■21659 / 親記事)  青春のすべて
□投稿者/ そら ちょと常連(90回)-(2012/10/09(Tue) 00:12:19)
    高校生になり
    考え方もだんだん変わってきて

    自分のことも考えて

    誰が好きで

    誰のために泣いたり

    悔やんだりしたのだろう



    その想い人も私も

    月日が流れて

    あっという間に大人になった

    私には彼女がいて

    想い人には年上の彼氏がいて


    お互いの気持ちはすれ違ったまま

    時間は過ぎた

    時間は過ぎたけれど

    今になっては
    良い思い出なんだと思う

    大事な思い出だよ
    人を好きになることに
    性別などなかったことを

    受け入れ教えてくれたのは

    あなたでした

    (携帯)
引用返信/返信

▽[全レス1件(ResNo.1-1 表示)]
■21660 / ResNo.1)  いち
□投稿者/ そら ちょと常連(91回)-(2012/10/09(Tue) 00:19:02)
    駅のホームに

    静かに待っていると

    足音が聴こえる

    ローファーのカタカタという冷たい音

    おはよう

    と挨拶する

    この一言から1日が始まる


    伝えたい気持ちを
    秘かに隠し

    勘づかれてはいけない
    秘密

    あなたを想う

    秘め事を秘密という




    (携帯)
引用返信/返信

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■21656 / 親記事)  scene
□投稿者/ もの 一般♪(1回)-(2012/10/08(Mon) 18:04:06)
    「そういうことじゃなくてさ」

    灯子が澄まし顔で言う。
    澄まし顔…と表現していいものか、いつもの、涼しげな顔で。
    指先が、グラスに触れて持ち上げた。細くも女性的でもない、ただ、お母さんみたいな、生活に使っていることがよく分かる指で。

    「私が益田に好きって言ったとするじゃん。そしたらさ、………。
    別に今更、友達って関係を壊すのが怖いとか、
    疎遠になるのが怖いとかね。そんなことは言わないんだけどさ」

    口元にだけ仄かに笑みが浮かぶ。大きめの、意思の強そうな黒目が此方を見て。あー…その笑い方、不敵って感じ。
    その後に瞼を伏せたりなんかするから、ちょっと色っぽい、なんて思ってしまった。

    「益田と私は、付き合い長いじゃん?
    えーと…何年だろ、高校からだから…、…12年?
    その間さ、あいつ、何度も失恋して私に泣きついてるし、私達そういう。
    ……こう、さばさば?したみたいな、関係だったからね。
    何かあると頼り合うけど、何もなければ特につるまない、っていう」

    「うん、知ってる」

    「そしたらさ、私が…まあ、好きとか言い出したらって話しね。
    益田ってさあ、あいつ、悩みそうじゃない?
    あの時はどうだったんだろう、あの時は…って延々と。
    自分を好きな灯子に、あんな話した、泣きついた、慰めてもらってたって」

    益田沙織の名前を出す灯子の顔が妙に優しい。穏やかっていうんだろうか。
    そんなに好きなのに、どうして気持ちを伝えないの?
    素朴な疑問をぶつけたあたしに返ってきているのがこの答え。

    「そうやってね、私達の思い出…ってもう、言っていいよね!?
    28だもん」

    からからと笑う明るい声が、強がっているわけじゃなく、本心だとあたしに伝えてくる。

    「私達の時間、汚したくないなって。自分の気持ちで」

    長めの黒髪が頬に影を作る。
    二人で薄暗い、バーと言って差し支えないお洒落な場所の椅子に座って。
    そうだ、あたし達、もう28歳だ。
    こんな場所に腰掛けて、割り切った恋の話しなんかをするようになった。

    存在感を感じさせない優しい曲が流れている。
    あたしの目の前にはピンクのカクテル、灯子の前には透明のカクテル。
    お互いにグラスに口をつけて、沈黙が流れた。

    「ねーねー」

    「ん?何?」

    「あたしはさあ、灯子に恋愛感情とかまじでないけど」

    「知ってるから!」

    吹き出さないで欲しいんだけど!

    「でも、応援してるよ。
    灯子が益田と12年ってことは、あたしと灯子も12年でしょ?
    二人のことずっと見てきたからさ。
    気持ちが通じるとか、そういうのを幸せの形と考えずにね。
    上手くいくといいなあって」

    「それを言うなら、今、上手くいってるんじゃない?」

    あたしは黙り込む。
    ……ああ、うん、そうだ。
    今、上手くいっている。
    灯子の長い片思いと、益田の思いやりが、全部を上手く運んで来たんだ。

    「……本当だ」

    あたし達は、小さく笑った。
引用返信/返信

▽[全レス2件(ResNo.1-2 表示)]
■21657 / ResNo.1)  scene-before3years.0122
□投稿者/ もの 一般♪(2回)-(2012/10/08(Mon) 18:24:48)
    「ふーらーれーたー…」

    益田がそう電話してきたのが、今から大体13時間も前。
    もう2年も3年も前からくっついたり別れたりしてきた彼女と、ついに今日、本当に破局したらしい。
    にも関わらず益田がどうしようもない程荒れたりしていないのは、もう随分前から今日のことを予感していたからだろう。

    益田の彼女は私に言わせれば、端的に言えば、あざといこだった。
    益田がそういうところを好きなことも分かっていて、愚痴に付き合いながらいらいらした日もあったんだから、私なんていう人間も相当マゾい。

    なんだかんだと沈んだ顔はしている彼女を飲みに誘ったけれど、人のいるところでは口数が少なくて。
    ただ料理ばかり見ているから、程よく酒が入ったところで自宅に誘った。
    それが夜中過ぎ。
    飲んだり、寝たり、DVD見たり、そんな風にしながらぽつぽつと零れる益田の言葉を全部聞いて、拾った。
    どれだけ好きだったかよく知っているから、どれだけ同じことが繰り返されても面倒だとは思わなかった。

    一頻り飲んだり食べたりすれば、いくら在庫豊富な私の冷蔵庫の中身もそろそろ心もとなくなってくる朝。
    勿論、心もとないのは酒類部門だけれど。
    お互い仕事のない日曜日。二人でなんとなく、言葉にすることもなく、コンビニへ向かう朝。

    益田は来た時の格好そのまま、ジーンズに深い緑のファー付きジャケット。
    私はもういい加減着古して捨てた方がいいだろうという感じの、擦り切れかけたジャージプラス白色パーカー。
    指先があんまりにも寒いからポケットに突っ込んで擦り合わせていたら、隣にいる益田も同じことをしていたから、なんだかおかしくなった。

    二人とも無言。
    喋ることもないし?
    唇から零れる息が白い。
    あー…そうだ、煙草買おう。そろそろ切れるんだった。

    「なんか、さ」

    「ん?」

    益田の声が弱い。
    横を見たらちょっと笑ったりなんかしている。
    あーもう、嫌だな。そんな遠く、見ないでよ。戻って来い。

    「人のでもいいから、…傍、……居て欲しかった」

    「……………」

    背の高い益田を睨みつけると、自然と視線が上を向く。

    「そういうこと言う?」

    「…だって、ほんとだし…」

    こいつ、本当に、だめなやつ。
    そんなことちっとも思ってないくせに。
    本当は、誰のものでもなく自分のものでいて欲しかったくせに。
    自分で分かってて言っているから、そんな風に遠く見て笑うことになるんだって、知ってるんなら、さあ。
    言うな。

    でも、私は黙っていた。

    本人が分かっているだろうことを、もう一度他人が言うなんて馬鹿げている。
    だから代わりに空を見た。

    「煙草買わなくちゃなあ。切れそう」

    「灯子、禁煙しなよ……」

    余計なお世話だっつーの。

引用返信/返信
■21658 / ResNo.2)  scene-before3years.0122
□投稿者/ もの 一般♪(3回)-(2012/10/08(Mon) 18:49:13)
    益田と私は高校の同級生だった。
    今時?って思われるかも知れないけど、私はどっちかっていうとヤンキーみたいなすれたグループにいて、美術部の益田は穏やかな人たちばかりが集まる、地味なグループの成員だった。
    だから当然の如く関わりなんて何もなくて。
    でも、私は割りと始めの方から益田が気になっていたんだから、今思えば長い片思い。

    高校入学当時から益田は背が高くて、156cmあるかないかの私は羨ましい人だなあなんて思っていた。
    それが、入学式で益田を見た第一印象。
    正面から見たら、綺麗な子だなと思った。
    綺麗っていうか…造りが繊細?
    私は鋭い猫目で造作もきついし、どうやら表情も冷たいみたいで、よく怖い、って言われていた。
    チビだけど怖いってどういうことよ、と思いながら、可愛いなんて言われるよりは嬉しかったから、あーそって。
    そんな自分を受け入れていたけど。
    でも、益田を見たら、この人私の理想だって思ってしまったんだよね。
    全体的に色素が薄くて、優しい顔立ちをしていて。
    睫が長くて、顔の濃くない外国人みたいな。

    「……何?」

    コンビニに入ると中が暖か過ぎて脱力。
    そのままぼんやり益田の顔なんか鑑賞してしまっていたらしい。
    不思議そうに聞かれたから眉をしかめたら、益田が笑った。

    「また、そんな顔してる」

    「不機嫌そうな?」

    「うん」

    「………慣れてんでしょ」

    「うん」

    口数の少ない益田は、私といても大体聞いていることが多い。
    高校の頃からグループの中では聞き役をやっていた。
    大勢に囲まれて大勢の話を聴いているけれど、自分からはあんまり喋っている様子のない益田が、気になっていた。
    十代の女の子って構って欲しがりじゃない?自分の話、沢山しない?
    でもあの人は穏やかに笑いながら聞いているだけだなあと思ったら、なんだか気になって。

    「灯子ー」

    「何?」

    「もうこれくらいでいいんじゃない?」

    益田の声を合図に会計をして、行きと同じ道を帰る。
    私達は行きよりも更に無口で。

    なんでだろう、コンビニなんて人の多い空間に出向いたからだろうか。
    それとも途中で、益田が手に取っていた炭酸飲料のせいだろうか。
    益田が、彼女が好きだからなんて、いかにも幸せボケしたへらへら笑いでそれを買い込んでいるのを、幾度か見たことがある。

    隣を行く足は長くて、歩幅も大きいから、自然私は早足になる。
    益田はさあ、絶対、気付いてないけど。

    コンクリートの上、彼女の歩幅に合わせて歩くことに専念していたら、益田がぽつりと言った。

    「………一人だなあ」

    「………………」

    自分が思わず半眼になったのが分かる。
    あーあーあー。
    それは他のどの台詞より言っちゃいけない台詞でしょうが。
    隣に誰がいるか、見えてないの!?あんたの親友、灯子様でしょうが。
    私の怒りのオーラが伝わったらしく、こっちを見た益田がへらへら笑う。
    幸せそうじゃない、なんだか諦めたみたいな顔で。

    「違うよ、そういう意味じゃないよ」

    「知ってるっつーの」

    地を這う自分の声。でも気遣ったりなんかしない。
    仕事の後の半日と、貴重な休日を潰して付き合っているのにその台詞はあんまりだ。
    思い切り睨みつけたら、嬉しそうに益田が微笑む。
    何こいつ、前から思ってたけどMなんじゃない?

    「……灯子、いつも変わんないね」

    「それ、10年後にもっかい言って。30越えたらきっと喜ぶから」

    「……救われてるなあ」

    そうでしょ?
    当たり前でしょ。

    この私があんたのために、どれだけ我慢して苦労して、今の私になったと思ってるんだろう。
    この私がそれだけやってるんだから、あんたはそうやって救われてくれてないと困る。
    コンビニで買った煙草に、もとからパーカーのポケットに入っていたプラスチックの安物ライターで火をつける。
    あー…煙草美味い。

    「帰ろ、寒い」

引用返信/返信

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■21651 / 親記事)  深海 1
□投稿者/ kuro* 一般♪(1回)-(2012/09/28(Fri) 17:47:17)





    去年同様、多くの被害者を出した猛暑がようやく終わり、秋がやって来た。
    風が冷たくなり、気温も下がって、随分と過ごしやすい季節になった。
    しかしこの時期になると台風が多くなるのも恒例のことで、今年も例外ではなく。
    ここ最近の天気予報では、現在上陸するおそれがある台風の話でもちきりだ。
    それを知った学生達が台風による休校を切に願うのも、毎年見られる光景である。
    その全国共通の光景は、ここ、私立天草学院でも見られるわけで―――――










    「ねえ、今朝の天気予報見た?ますます台風が近付いてるんだって!」



    「見た見た!来週から再来週辺りが危ないんでしょ?休校にならないかなー」



    「上手くいけば休校になりそうだけど・・・・どうなんだろうねー?」




    朝から教室は台風の話で賑わっており、まるで蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
    おはよう、という挨拶の次には、誰もが台風の話題を持ち出しているせいだろう。
    しかも今回の台風は小さくはないようで、上陸すれば休校は確実なものとなる。
    寮暮らしをしている生徒達と言えども、やはり休校となれば嬉しいらしい。
    学年もクラスも関係なく台風へ興味を示し、休校への期待をせずにはいられない。




    高等部2年の雨月薫もまた、クラスメイト達と朝から台風の話をしている最中だ。
    しかし彼女は内心台風による休校も期待していなければ、台風への関心もない。
    彼女の性格上、自分から強い関心を示すような事柄や人物なんて、希少なものだ。




    戸籍上、生物学上ではれっきとした女性だが、女性にも男性にも見える薫。
    そんな薫に一方的に恋心を抱いたり、ファンになったりする女子生徒もいる。
    天草学院が女子校で、身近に一切男性の存在がないのも原因の1つだろう。
    休憩時間や放課後に告白されたり、周りを囲まれたりすることはざらだ。
    しかし、当の薫は誰を特別扱いするわけでもなく、特に恋人もいないようだ。
    その癖相手がときめくような台詞を言ったりするものだから、余計に人気が出る。
    今では天草学院のシンボル的存在とまで言われるような存在になってしまった。




    そんな天草学院のシンボル的存在兼王子様は、女子の輪の中から逃げ出した。
    確かに女の子達は可愛いと思うし、嫌いだとは思わない、寧ろ好きな部類に入る。
    しかし寮から校舎に行く途中からずっとまとわりつかれては、流石に疲れる。
    行き先を曖昧に誤魔化して教室から逃げ出した薫は、深い溜め息を吐いた。




    「はぁ・・・・今日は早く来すぎちゃったからなあ・・・・」




    朝礼が始まるのは8時50分、現在の時刻は8時15分、かなり時間がある。
    今日は普段よりも早く起きてしまい、普段より早く校舎の方にやって来た。
    あっという間に囲まれてしまうのはいつものことで慣れてはいるが、疲れる。




    (今は1人でどこか静かな場所で、ゆっくりと時間を過ごしたい・・・・。)




    周りからの熱い視線や呼びかけをかわし、静かで人がいない場所を探し歩く。
    図書室は受験生である高等部3年生の先輩方が勉強をしているだろう。
    保健室に行くと、もしその姿を見られたら、後から面倒臭いことになる。
    空き教室はきっちりと鍵が閉められて、その鍵は事務室に置いてある。
    生徒達が続々と寮から校舎の方へ移動してくる中、発見は難しそうだった。










    〜〜〜〜〜♪




    薫が4階に来た時、誰かが弾いているのであろうピアノの音色が聞こえてきた。
    その音色は、澄み切っていて透き通るような、綺麗で優しい音色だった。
    ピアノが弾ける人は数多くいるが、ここまで綺麗な音を出す人は知らない。
    薫はその音色に導かれるように、4階の1番奥にある音楽室へと歩いて行った。




    音楽室のドアを音をたてないように気を付けて開けると、1人の生徒がいた。
    緩くウエーブがかかった肩ぐらいまでの髪を風で揺らしながら演奏する姿。
    彼女は薫と同じ高等部2年の生徒で、彼女の名前は確か―――――




    「・・・・あら?」




    彼女が入口の所に立っている薫に気付き、演奏していた手を止めてしまった。
    ぼーっと彼女を見ていたらしい薫ははっとして我に返り、視線を合わせた。
    そう、確か、彼女の名前は、和宮乙葉・・・・実家は大企業というお嬢様だ。
    彼女も薫と同じく、この学院のシンボルのように扱われている人気者だ。
    前に同じクラスの生徒が彼女のことを話していたのを、小耳に挟んだ記憶がある。




    「貴女は確か・・・・雨月さんではなくって?」




    ふわり、と微笑んだ乙葉の声は、これぞ鈴を転がすような声、という感じだ。
    女性らしく可愛らしい、ピアノの音色と同じ澄んだ声で、話しかけてきた。
    乙葉はピアノの蓋を下ろして閉じると、立ちあがって薫の方へと歩み寄った。
    身長は薫が170センチを超えるせいもあるが、10センチぐらい低い。
    下から見上げるようにして視線を合わされ、乙葉の目に薫の顔が映る。




    (あ、この子、髪もだけど、目も色素薄い・・・・茶色っぽい、)




    「・・・・?雨月さんではなかったかしら?」




    薫が自分をしっかりと見つめたまま何も言わないので、乙葉が軽く首を傾げる。
    それに合わせて髪がさらりと左側に流れ、微かにシャンプーの匂いがした。




    「ああ、ごめんね。・・・・そう、僕は雨月。雨月薫。君は?」



    「私は和宮乙葉。貴女と同じ学年なんだけれど・・・・ご存じなかった?」



    「クラスの子が話しているのを聞いたことがあってね、名前だけは知ってたよ」



    「まあ、有名な雨月さんに知って頂けていたなんて・・・・光栄なことね」




    くすくすと笑う乙葉は、流石薫と同じぐらいの人気を集めるだけのことはある。
    綺麗な声に柔らかい口調、女性らしく美しい容姿に、優雅で上品な動作・・・・。
    口調や動作はお嬢様だからなのかもしれないが、それでもどこか心が惹かれる。




    「私のクラスの生徒達も、よく貴女について話しているのよ?人気者ね」



    「君だってかなりの人気があるそうじゃないか」



    「でも貴女は私の名前しか知っていて下さらなかったのね」



    「それは・・・・・ごめん」



    「別に気にしていないわ?寧ろ少し心が楽よ、先入観がなくて」




    私も貴女のことは名前しか知らないからおあいこね、などと笑いながら言う乙葉。
    乙葉もまた、実際に近くで人気者の薫を見て、噂に違わぬ人物だと思っていた。
    イギリス人の祖母の血を受け継いだふわふわとした金髪に、薄い青色の目。
    顔立ちも髪型も背格好も、街中を歩く男女を片っ端から圧倒しそうなほどだ。




    「実はちょっと静かな場所で過ごしたくてね。僕もここにいても構わないかな?」



    「ええ、いいわよ。お好きなだけどうぞ」



    「それともう1つ・・・・君のピアノ、もっと聴きたいな」



    「あら、お気に召して頂けたのかしら?」



    「うん、とても綺麗な音色だったよ」



    「ふふっ、じゃあ弾かせて頂くわね」




    薫は1番前の机の上に座り、乙葉はピアノの蓋を開くと、再び演奏をし始めた。
    綺麗なピアノの音色が流れる中、2人はゆったりとした時間を楽しんだ。
    そして時計の針が8時40分を過ぎた頃、その時間は遂に終わりを告げた。




    「ありがとう、楽しい時間だったよ。久しぶりに落ち着けた」



    「それは何よりだわ。また機会があったらお会いしましょう」



    「君はいつもこの時間にここに来るの?」



    「ええ、ピアノを弾くのが好きなの。毎朝8時ぐらいからここにいるわ」



    「じゃあ・・・・これからは毎日ここに来てもいいかな」



    「断る理由なんてないわ、勿論大歓迎よ」




    乙葉を教室まで送り届ける最中、薫は初めて心が安らいだ気がした。
    それは乙葉も同じで、薫と一緒にいても、全く苦にならない気がしていた。
    今までは自分のことを知っていて近付いてくる人ばかりで、対等ではなかった。
    だけど乙葉も薫もお互いのことは名前しか知らず、話していても対等だ。




    2人はこの学院内で、初めて自分と対等に渡り合ってくれる相手を見つけた。




引用返信/返信

▽[全レス1件(ResNo.1-1 表示)]
■21652 / ResNo.1)  深海 2
□投稿者/ kuro* 一般♪(2回)-(2012/09/28(Fri) 18:47:23)




    「ねえ今朝の見た!?」



    「雨月さんと和宮さんのツーショットでしょ!?」



    「えーっ、すっごいツーショット!!」



    「今朝雨月さんいなかったし、2人で過ごしてたのかな!?」



    「じゃあ2人は恋人同士!?」



    「えーっ、じゃあ私達無理じゃない!!」



    「でもすっごく似合ってるから、納得しちゃうよねー!!」




    今まで台風の話でもちきりだったのに、今度は薫と乙葉の話でもちきり状態。
    薫は朝礼が終わった後、休憩時間の度に他の生徒からの質問攻めを受けた。
    乙葉は普段なら薫のように囲まれることはないが、この日ばかりは囲まれた。




    「ねえ、和宮さんって、あの雨月さんと付き合ってたの!?」



    「今日初めてお会いしたわ。それまではお名前しか知らなかったわ」



    「ええーっ、和宮さんって雨月さんのこと知らなかったの!?」



    「ええ・・・・」




    乙葉は慣れない質問攻めと人の輪に若干たじろぎながらも、質問に答える。
    周りの生徒達が離れてくれる気配は全くなく、まだしばらく続きそうだ。
    いつの間にか勝手な憶測や妄想までもが飛び交い、訂正する気にもならなかった。




    (私は本を読みたいのだけれど・・・・困ったわね)




    図書室で借りた本を読んでしまいたいのだが、そうもいかないこの状況。
    ここから抜け出そうにも四方を生徒に取り囲まれているため、出来そうにない。
    今頃薫も同じような目に遭っているのだろうと想像して、こっそり溜め息をつく。










    ―――――乙葉が想像した通り、薫は薫でまた、同じように囲まれていた。
    笑顔を浮かべているものの、これまた乙葉と同じく、抜け出したがっていた。




    「和宮さんと付き合ってるの!?」



    「いや、付き合ってないよ、たまたま出会っただけ」



    「なんだ・・・・ならよかった〜!!!」



    「和宮さんも素敵だけど君たちも十分素敵だよ、とっても可愛いじゃない」



    「「「「・・・・!!!!」」」」





    にっこりと優しげに微笑んで言えば、簡単に真っ赤になってしまう周りの生徒。
    こういうところが女の子は可愛いから好きなのだが、いい加減逃げ出したい。
    さっきよりも静かになった彼女達を置いて、薫は教室を出て行った。
    そして3つ隣のクラスの教室で困っているであろう乙葉の元へと急ぐ。
    こっそりと教室の中を覗くと、予想通り、窓際の席には人だかりが出来ていた。
    乙葉のクラスの生徒の視線を集めながらも、その人だかりへと近付く。




    「あ、雨月さん!!!!」



    「えっ、どうしてうちのクラスに!?」




    人だかりをつくっていた生徒達にばれてしまい、また騒がれてしまった。
    乙葉は慣れていない人だかりの中央部分で困り果てたような顔をしていた。
    そんな乙葉の手を握って彼女を立たせると、周りの生徒達は急に静まり返る。
    そして薫が歩みだすと、自然と人だかりが割れ、道をつくってくれた。




    「みんな、僕らのことが気になるのは分かるけど・・・・ほどほどにしてね?」



    「で、でも・・・・・!!」



    「特に和宮さんはこういうの慣れてないし・・・・ね?」



    「「「・・・・!!!」」」




    先程は自分のクラスの教室で、優しげな王子様スマイルを浮かべた薫。
    今度は違うクラスの教室で、困ったような微笑みを浮かべてみせた。
    その捨てられた子犬のように愛らしく同情を誘う笑みは、人を黙らせた。
    周りの生徒を無事黙らせることに成功した薫は、乙葉を連れてさっさと退散した。




    「貴女・・・・自分を上手く見せるコツを知っているのね」



    「ふふ、何のことかな?」



    「まあ、性質が悪いわね」




    薫に性質が悪いなどと言いつつも、乙葉はくすくすと可笑しそうに笑った。
    廊下でも生徒達の視線を浴びながら、薫は乙葉の手を引き、歩き続ける。




    「あら雨月さん、どちらに行くつもり?」



    「薫でいいよ・・・・どこか静かな場所に行こう」



    「でもあと少しで授業が始まるのではなくって?」



    「うん、そうだね」




    そうだね、と当たり前だと言わんばかりに返事をしつつ、教室から遠ざかる薫。
    乙葉は授業をサボることになると分かりつつも、その手を振り払わなかった。










    「・・・・こんな場所、あったのね」




    あの後薫は黙ったまま歩き続け、乙葉も行き先も何も聞かずに黙って歩いた。
    薫が乙葉を連れてきたのは、学校の敷地内の隅の方の、誰も知らないような場所。
    大きな木があり、芝生の上に影をつくっていて、薫は影の上に寝転んだ。
    それを見て乙葉も薫の横に座り、周りをもの珍しそうにきょろきょろと眺めた。




    「僕のとっておきの場所。人が滅多に来ないんだ。たまに掃除の人が来るぐらい」



    「そうなの・・・・そんなとっておきの場所に私が来てもよかったのかしら?」



    「ああ。・・・・君は他の人とは違う気がするんだ」



    「あら奇遇ね、私もそういう風に思っているわ」




    遠くで鳴る授業の開始を知らせるチャイムを聞きながら、2人は上を見上げた。
    青い空と白い雲が広がっていて、飛行機雲も見えて、涼しい風が吹き渡っている。
    風が吹くのに合わせてこの大きな木や周りの木の葉が揺れ、音を立てている。




    2人は授業の間中、ずっとその場所で2人きりの時間を過ごしていた。




引用返信/返信

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■21629 / 親記事)  歳の差から生まれる心の距離はありますか?
□投稿者/ zoo 一般♪(1回)-(2012/09/08(Sat) 23:29:59)
    江藤りこ、35歳、独身。

    見た目には一応気を遣ってる。
    女性らしさを失わないように、お化粧や美容室での手入れなど、怠らないようにはしている。
    背は153センチと小柄だけど、いつもヒールを履いて160センチくらいにはなっている(笑)。



    そんな私は女子高で英語の教師をしている。
    手のかかる生徒もいるけど、基本的には皆よい子ばかりで、毎日充実している。


    プライベートでは、友達の紹介で知り合った同い年の彼がいる。付き合い始めて1年くらい。
    彼を好きかどうかと聞かれると、好きなのかな・・一緒にいて落ち着くし、優しい。
    でも、昔からの友人は私の恋を、ドキドキがなくて刺激がないのはつまらないって言う。


    ドキドキかぁ・・・そんな歳でもないしなぁ。
    結婚も考える年頃だし、やっぱり一緒にいて落ち着けて信頼関係を築けるような相手がいい。



    そう思ってた。
    なのに、私は大きく動揺していた。
    ある一人の存在に。




引用返信/返信

▽[全レス50件(ResNo.46-50 表示)]
■21707 / ResNo.46)  お礼
□投稿者/ zoo 一般♪(40回)-(2012/12/09(Sun) 14:10:19)
    2012/12/10(Mon) 09:33:54 編集(投稿者)

    Thanks To:
     このお話を何人の方が読んでくれていたのかはわかりませんが、
    最後まで読んで頂けた方、コメントをくださった方、本当にありがとうございます。

    感謝。


    Special Thanks To:
    頻繁にコメントをくださっていたmiyaさん、期待にお応え出来るような結末だったでしょうか?
    毎回のコメント、ありがとうございます。とても嬉しかったです。
    心からお礼を申し上げます。




引用返信/返信
■21708 / ResNo.47)  Re[38]: お礼
□投稿者/ miya 一般♪(9回)-(2012/12/21(Fri) 19:16:51)
    完結まで、ありがとうございましたm(_ _)m

    催促ばかりで申し訳ないな〜と思っていたのですが、
    応援できていたのなら、安心しました(^^ゞ
    しかし、後半のくだりは、気になりますねぇ〜(笑)

    また素敵な物語(実話?)を紡いでください^^

    来る年が、zooさんにとって更に輝いた年になりますように...
引用返信/返信
■21711 / ResNo.48)  感想
□投稿者/ 愛 一般♪(2回)-(2013/01/02(Wed) 21:10:50)
    とっても素敵でした。
    次の作品も期待しています♪
引用返信/返信
■21712 / ResNo.49)  お礼
□投稿者/ こねこ 一般♪(1回)-(2013/01/11(Fri) 17:07:22)
    ステキなお話しありがとうございます。
    m(__)m

    では、失礼いたします。

    (携帯)
引用返信/返信
■21713 / ResNo.50)  感想^^
□投稿者/ miya 一般♪(10回)-(2013/01/13(Sun) 13:53:30)
    面白かった〜^^
    また、書いてくださいね^o^v
引用返信/返信

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■21622 / 親記事)  ヤクソク
□投稿者/ 楼 一般♪(2回)-(2012/09/08(Sat) 18:45:59)
    2012/09/08(Sat) 20:24:10 編集(投稿者)





    出会ったきっかけは・・・・確か、大学の入学式の時。










    留年も浪人もすることなく、無事地元の高校を卒業できた。
    1年生の時から憧れていた第一志望の大学にも一発合格、入学決定。
    初めて地元からも親元からも離れ、他県で一人暮らしをすることになった。




    春休み、両親と妹を引き連れて、これからの生活の拠点にお引越し。
    先に運んでおいてもらった段ボールの山を、4人で片付けた。
    部屋を決める時にも訪れたマンションだったけど、やっぱり違った。
    今日からここで生活するんだなあ、って思うと、複雑な気持ちだった。
    わくわく感と、寂しさと、不安と・・・・いろんな感情があった。
    だけど今更実家に帰ることもできなくて、せっせと片付けに精を出した。




    4人で集中して作業をしたおかげで、数時間で片付けは終了。
    近くのレストランで、家族全員で引っ越し祝いのディナーを食べた。
    その後、両親も妹も新幹線でとっとと家に帰っちゃったけど。
    1泊ぐらいしていってもよかったけど、生憎場所がなかったから。
    ホテルに泊まるのも何だかねえ、ってお母さんは笑ってた。




    それから1週間経って、大学で盛大に入学式が行われた。
    事前に買い揃えておいた黒のレディーススーツを身にまとい出席。
    両親は共働き、2人とも仕事で入学式には出席できなかった。
    だから1人で電車に乗って大学に行って、1人で出席した。
    親御さんも来ている人がたくさんいたけど、羨ましくはなかった。
    昔から周りの人に「意外とドライなとこあるよね」って言われる私。
    確かにこういうところがドライだよなあ、って1人で小さく苦笑した。




    やっぱり大学の入学式はすごくて、とにかく人が多かった。
    今まで入学した学校の生徒数は少ない方ではなかったけど、比じゃない。
    人、人、人で、人が多い場所が苦手な私は、うんざりしていた。
    だから入学式が始まるまでの間、ちょっとそこらを散策することに。
    正直電車の時間を間違えてしまって、早めに来ちゃって暇だったから。
    入学式が始まる予定の時間まで、あと数十分の余裕があった。




    人の流れに逆らって歩いて、適当に敷地内をぶらぶら歩いた。
    先輩方の視線が多少は気になったけど、全部無視して歩く。
    オープンキャンパス以来だったから、夏以来の大学の風景だ。
    夏とは違って丁度いいぐらいの気温で、春らしい晴天の日だった。




    携帯を弄りながら適当に歩き回っていると、1人の先輩が視界に映った。
    赤いファイルやら教材らしき本やらを抱えた、1人の女の先輩。
    急いでいるのか、少し多めの荷物を抱えながら走っていた。
    年上だろうけどどこか危なっかしい感じで、なんだか気になる先輩だ。
    つい立ち止まって、その先輩がこちらに走ってくるのを眺める。




    「あっ、えっ、わわわっ!?」



    「!?」




    ・・・・・私が立ち止まった数秒後、その先輩は盛大にすっ転んだ。
    段差も何もない、本来なら転ぶ要素がどこにもない場所で、盛大に、だ。
    ファイルやら本やら荷物が宙に舞い、先輩の身体は前方に大きく傾いていく。
    手ぐらいつけばいいものを、腕を真っ直ぐに伸ばしたまま、顔面から、ドシャッ。
    しかも転んだ後、すぐに起き上がることをせず、しばらくそのまま。




    頭を打って気絶でもしたのかと思い、近くに歩み寄ってみる。
    すると、むくりと顔をあげ、こちらを涙で潤んだ目で見上げてきた。




    (・・・・・可愛い)




    顔面から地面に着地したせいで、額に傷ができ、血が出ていた。
    無言のまま身体を起こし、身体のあちこちをチェックする。
    膝も少し擦りむけていたし、荷物は少し離れた場所に吹っ飛んでいる。
    よくもまああそこまで盛大に転んだものだと、内心感心すらした。




    「・・・・大丈夫ですか?」




    未だに涙目で荷物を拾い上げていた先輩に声をかけた。
    荷物を全部拾い終わると同時に、額から血を出した先輩が振り向く。
    私は無言でカバンから絆創膏を取り出し、先輩に数枚手渡す。
    先輩もきょとんとしたままの顔で無言で受け取った。




    「あ・・・・ありがとう、ございます、」




    私の顔をしっかり見ながらふにゃり、と笑った顔は、可愛らしく見えた。
    私は無言で先輩の小さな手から1枚の絆創膏を抜き取った。
    それにまたきょとんとした先輩の顔は、目が点になっている。




    「・・・・おでこ、血ぃ出てるんで。貼ってあげましょうか?」



    「えっ!?あ、じゃあ・・・・お願いします」




    前髪を両手で押さえ、貼りやすいようにして、目をぎゅっと瞑る。
    目を瞑る必要性なんてどこにもないけど、特につっこまず。
    傷の大きさと絆創膏の大きさが合うか心配したけど、大丈夫だった。
    絆創膏を貼り終えると、先輩は、必死で前髪で隠そうとしていた。
    額に貼るついでに、膝の怪我の所にも絆創膏を貼ってあげた。




    「本当すみません・・・・」



    「いえ、別にこんぐらい・・・・じゃ」




    私は荷物を両手で胸のところで抱えた先輩を置いて、来た道を戻った。
    ちょっと後ろを振り返ってみたい気がしたけど、入学式の会場へと歩く。
    思い出しても笑える転び方をした先輩と、これから関わることはあるだろうか。
    人数が多い学校だし、多分数えるほどしか関われないとは思う。
    というか、これから先、何らかの形で関われたなら、それはすごい。
    私は積極的に何かの役を引き受けたりしないタイプだから余計に。
    サークルには参加する予定だけど、サークルもたくさんある。




    その後、入学式に出席し、その日は徐々に慣れてきた自宅に帰った。





引用返信/返信

▽[全レス8件(ResNo.4-8 表示)]
■21626 / ResNo.4)  
□投稿者/ 楼 一般♪(6回)-(2012/09/08(Sat) 20:34:57)





    それから目まぐるしく月日は過ぎ去り、9月になった。
    残暑は厳しいけど、もうすっかり1人きりでの生活に慣れた。
    あの先輩とは会うことはなく、里香ともあの話をすることもなく。
    講義を受けてサークルの活動に参加してバイトをして家事をこなす。
    そんな単調、時には刺激的な生活をひたすらに繰り返していた。





    「葵ー、いるー?」




    先輩に誘われてラリーをし始めて数分、別の先輩に呼ばれた。
    1つ年上の川上先輩、最初見た時に男性かと思ったけど女性だった。
    そこらへんの男性よりも男前な先輩の呼び名は、“兄貴”。
    でも下の名前は“瑛里”という、ものすごいギャップ。




    「はい、なんですか?」



    「葵に会いたいって人が来てるんだけど・・・・」



    「私に・・・・会いたい人、ですか?」



    「いやー、私も名前知らなくてね・・・・同い年らしいんだけど」



    「先輩と同い年の人なんですか?」



    「そうそう、だけど違う学部らしくて、面識なくってね」




    名前を知らない先輩からの呼び出しだが、一応行ってみることにした。
    待っているという体育館の入り口に出てみると、1人の女性がいた。




    「「あ・・・・・」」




    ・・・・あの、おっちょこちょいで危なっかしい先輩が、立っていた。
    私より1つ年上の先輩だったなんて、今初めて知った先輩が。




    「あのっ・・・・さっき、たまたま体育館にいるの見かけて・・・・」




    どうやら、私が体育館にいたのを、通りすがるついでに見つけたらしく。
    グッドタイミングで体育館に入ろうとした先輩に、呼んでもらったらしい。




    「せめて名前を伝えてあげて下さい・・・・先輩困ってたんで」



    「あっ、ほんとだ・・・・名前言い忘れてた・・・・!」




    ここまでくるとおっちょこちょいというよりは、天然なんだろうか。
    まあ名前を伝えてもらっても、先輩のことが思い浮かぶはずがないけど。




    「で、名前、なんて言うんですか?」



    「えっと、心理学部の、榎原美優っていいます、」




    確かに、文学部の“兄貴”こと瑛里先輩とは、面識がないはずの学部。
    先輩が名前も分からず面識もなくて戸惑うのは、納得できる。
    同じサークルのメンバーでもないし、余計に戸惑ってしまうだろう。




    「あなたは、なんてお名前ですか?」



    「私は法学部の渡部葵です」



    「わあ、賢いんですね・・・・!」




    心の底から感心しました、って感じの顔をした先輩は、子供のよう。
    目をきらきらさせながら見つめてくる先輩は、年上には見えない。
    まあ身長が150センチぐらいだから、見た目からして子供みたいだけど。
    私が165センチぐらいあるから、一層子供みたいに見えてしまう。




    「あの、このあ「みーちゃん・・・・・?」・・・・・え・・・・?」




    私の背後、体育館の中の入り口近くの方から、声がした。
    振り返ってみると、そこには、美穂が立っていた。




    「みーちゃん・・・・・」




    どういうことだ、と混乱する私に、更に混乱が訪れる。




    「美穂ー、いきなりどうしたの・・・・・え・・・・美優・・・・・?」




    笑顔で美穂の元に走ってきた里香の笑顔がふっと消えた。
    そして、驚きの表情を浮かべ、先輩を呼び捨てにして見つめる。




    (なにこのドラマか何かみたいな展開・・・・・)




    「みっちゃん・・・・?りぃ・・・・・?」




    何かが、起きる予感がする・・・・私の胸は、ざわついた。





引用返信/返信
■21627 / ResNo.5)  
□投稿者/ 楼 一般♪(7回)-(2012/09/08(Sat) 20:50:10)





    立ちつくし、お互いを黙り込んだまま見つめあう3人。
    このままでは入口近くだし邪魔だから、中に入るよう促す。
    3人は黙ったまま中に入り、体育館の隅に座り込んだ。
    私も3人と並んで座り込んで、どうしたもんかと考える。




    (・・・・これは、どういうことなんだ・・・・・?)




    3人とも黙ったままで、どうしたらいいか分からない。
    どうやら何かあった関係らしいけど、私はそれを知らない。




    「あのさ・・・・・どういうことなの、これ。説明してくれる?」




    私がこう聞くと、お互い顔を見合わせていたが、里香が口を開いた。




    「前、話したでしょ、双子の話・・・・・私が好きだった方の、片割れの方」




    つまり、里香の忘れられない人の、双子の姉だか妹だかが、先輩だと。
    数年ぶりに突然再会したんだったら、そりゃあ戸惑うのも頷ける。
    美穂は体育座りをしたまま俯き、床をじっと見つめたまま動かない。




    「で・・・・・美穂と先輩は?」



    「私とみっちゃんは・・・・・昔、付き合ってたの・・・・・」



    「つまりは、元カノ?」




    里香の忘れられない人の双子の片割れは、美穂の元恋人で、3人が再会。
    なんとまあややこしく波乱が起こってしまいそうな展開なんだろうか。
    それに挟まれてしまった私は、これからを想像して頭を抱えた。




    「とりあえずさ・・・・場所移動しない?」




    何事だと注目を浴び始めたのもあり、3人を再度促して体育館を出る。
    そして私と里香と美穂は着替えを済ませ、4人で駅前のカフェに向かった。
    その途中でも誰もしゃべらず、あまりおしゃべりではない私はまた困っていた。
    こういう時に場を盛り上げてくれるのは里香だけど、今は無理そうだ。





    私たち4人はきまずい雰囲気のまま、明るいカフェの1番奥のテーブルへ。
    ・・・・・空はオレンジ色に染まって、そろそろ夜を迎えそうだった。





引用返信/返信
■21628 / ResNo.6)  
□投稿者/ 楼 一般♪(8回)-(2012/09/08(Sat) 22:22:11)




    それぞれ飲み物ぐらいは、と飲み物を注文してからの話は、こうだ。










    里香と離れ離れになった先輩の片割れ、亜優さんは、しばらくふさぎ込んだ。
    先輩は必死で亜優さんを慰め、支え、長い月日を経て元気を取り戻した。
    先輩と亜優さんは母親と、弟さんは父親と一緒に暮らしていたという。




    2人で一緒に地元の高校に進学し、大学を目指した。
    しかし亜優さんは途中で志望を変更、専門学校に入学したらしい。
    亜優さんは今は他県の専門学校でエステの技術を学んでいる。
    それでも先輩とは1か月に1回は会っているとのことだ。










    そんな先輩が美穂と出会ったのは、中学校生活が残りわずかな時。
    同じ部活に所属していて仲が良かった美穂と、連絡先を交換。
    それからメールのやり取りや電話のやり取りが始まった。
    休みには一緒に遊んだり泊まりに行ったり来たりする仲になった。
    そして先輩が高校に入学する前に・・・・付き合い始めた。
    だけど忙しさゆえのすれ違いと先輩の気持ちが冷めたのが原因で破局。
    2人は別々の高校に進学して、別れてからは会っていなかった。










    「まさかこんなことになるなんて・・・・・同じ大学なんて・・・・・」




    紅茶にミルクとシロップを入れた先輩は、それをゆっくりかき混ぜた。
    里香も美穂も、無言でココアと抹茶オレを喉に流し込んだ。
    私はコーヒーを飲むのも忘れ、どうしようかと考えを巡らせていた。
    でも、何も思い浮かばない、まあある意味当たり前かもしれない。




    「あの・・・・これから、どうするの?」




    最初に口を開いたのは、里香だった。




    「私たちはきまずかったりするけど、葵は関係ないし・・・・」



    「そうだよね、葵は関係ないよね・・・・」




    1番気まずいのは、元の関係が恋人同士だった、先輩と美穂だ。
    里香も里香で戸惑うかもしれないが、先輩と美穂の方が気まずいだろう。
    先輩が亜優さんとやらだったら、里香も気まずいかもしれないけど。




    「まあ私はとりあえず、重い空気にならなければ構わないです」




    そうは言ったものの、果たしてその願いが実現するのだろうか?
    しばらくは特に先輩と美穂が気まずいだろうから。




    「・・・・・分かった。努力はする」




    美穂はそう言ってくれたけど、私の気持ちはいまいちなままだ。





    その日は結局、特に何も変化がないまま、解散した。





引用返信/返信
■21648 / ResNo.7)  楼さんへ
□投稿者/ nico 一般♪(1回)-(2012/09/26(Wed) 05:39:23)
    面白いです(>∀<)

    続きが気になりますので
    是非ともお願いします!!


    (携帯)
引用返信/返信
■21775 / ResNo.8)  Re[1]: ヤクソク
□投稿者/ 夢 一般♪(1回)-(2013/11/12(Tue) 23:11:23)
    面白いです!!

    ちなみに、この名前は適当に付けられましたか?
    って聞くのは、年上の知り合いと同姓同名なので…。
    宜しくお願い致します。
引用返信/返信

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