□投稿者/ つちふまず ファミリー(173回)-(2006/09/15(Fri) 20:38:14)
| ─例えばこういう時
「……付いてるよ」
笑いながらここ、と私は自分の唇の端をなぞると。
「…えっ!あ…へへ」
慌てて顔に居座っていた食べかすに指を。
「取らないから。ゆっくり食べてよ」
「うん。…うん」
─例えばこういう時
こういう時なんだと。
私は思う。
「あれ。髪、切ったの?」
「……昨日慌てて美容院行って来た。」
「え。」
「だって急に逢おうなんて言うんだもん。」
─例えばこういう時。
こういう時なんだと。
私は思う。
「だからね、あなたはそう思うかもしれないけど、現に私はこう思った訳」
「………。」
「だってそうでしょ?あの時だってこうなったし。あーもう訳わかんなくなって来た」
「………。」
─例えばこういう時
こういう時なんだと。
私は思う。
「なんでかな」
「………。」
「悲しいんじゃないの。悲しいなら泣かないもん。悔しくて泣けるんだよ」
「うん」
「うまく行かない事、たくさんあるよね」
「うん」
─例えばこういう時
こういう時なんだと。
私は思う。
「おはよ」
「あー…」
「起きた?」
「…うん、ありがとう」
「電車乗るね。今日も頑張って」
─例えばこういう時
こういう時なんだと。
私は思う。
それでも─
「…ごめん」
「ううん。大丈夫だよ」
「じゃあ、ね」
「…うん、元気で」
きっと例えば─
こういう時だったんだと、
今では思う。
いつも笑顔で言いたいその言葉を。
いつか涙しながら叫んだその言葉を。
言えずに胸に秘めたままだったその言葉を。
照れながらも言ったその言葉を。
今日も、 今日もどこかで。
誰かが囁いている。
夜に呟いている─
fin.
…次は『肩こり』で(笑)
(携帯)
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