■20857 / ResNo.24) |
3・ネオン蝶(2)
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□投稿者/ K 一般♪(9回)-(2008/05/29(Thu) 00:11:06)
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1日のうちで1番太陽が高い位置にくる時になると、病棟もお昼の準備で慌ただしくなる。
受け持ち患者さんの名前が書いてある食事箋と食事箋通りの食事が載ったお盆を手に持つと、あたしは患者さんの病室を訪室し始めた。
そして…
「立花さん、お昼ですよ?」
個室の彼女の部屋を最後に訪室したあたしは、ポーカーフェイスを保ちながら食事のセッティングをする。
「…なんか、入院するまでこの時間に起きてる事なんかあんまりなかったから、健康的な生活を送ってる気がします。」
沈黙を破ったのは立花さんで、あたしは一瞬戸惑った。
「まぁ…お仕事柄、お昼と夜が逆ですからね。ドレス着たら今以上に綺麗なんだろうな…立花さん」
何とか不自然に思われないように会話しなければならないと思って頑張るが、やはり目を見て会話をする事はできない。
「私のお仕事、軽蔑します?」
「軽蔑なんて…あたしには絶対にできない仕事ですから、それをやり遂げちゃう立花さんはすごいと思いますよ」
水商売は客を引き付けるような接客術や自分の美しさを保つためなどの努力が欠かせない仕事だと思う。 誰でもできる仕事じゃないからこそすごいと思っている事を、あたしは素直に彼女に伝えたつもりだった。
しかし
「それって口だけならなんとだって言えますよね」
あたしの言葉を聞いた後、少し間を置いてから、立花さんは突然今までと違ったキツイ口調になった。
「だってあなた、私の顔見てきちんと話してくれた事ないじゃない。最初は人の目を見て話すのが苦手な人もいるからなーって思って我慢してたけど、もうウンザリだわ。そんなにお水の女の面倒をみるのが嫌なら他の看護師に変わってもらって結構です。」
こんな時、すぐに言葉が出てこない自分が嫌になる。
彼女の言葉を聞いて、あたしは自分自身を情けなく思った。 あたしは、何て事をしてしまっているのだろうか。 意識しないようにと行動しているうちに、彼女を傷付けてしまっていたならば、あたしは看護師としても人間としても彼女に最低な事をしてしまっていたのだ。
「…すみません」
「……私だって、色々とあってキャバクラで働くようになったんですよ。嘘の笑顔と嘘の会話で男に貢がせてるなんて思われたくない…世間のお水に対する風当たりは強いけど、お水をやってるからってだけで私って人間を判断されると悲しくなります。」
彼女の悲しそうな顔を見て、自分のやってしまった事を改めて反省する。 仕方がない、彼女を傷付けてしまったならいっその事、彼女に素直な気持ちを話してしまった方がいいだろうと思った。
「違うんです」
「…言い訳する気ですか?」
「言い訳になっちゃうのは確かなんですが…立花さんが綺麗すぎて、目を見て話したら意識しちゃって大変だから目も合わせられなくて…」
「それで?」
「……すみま、せんでした…。」
最後の方は恥ずかしくなって俯いてしまった。 言ってしまったら、後にはもう引けない。 次に何を言われるか、あたしはドキドキしながら彼女の言葉を待った。
「ねぇ、騎橋さん…私のお仕事、何だか覚えています?」
少しの沈黙の後、立花さんに質問される。
「…?キャバクラ嬢、ですよね?」
今更どうして聞くのだろうかと不思議に思いながら聞き返すと、彼女は美しい顔をニッコリと微笑ませて、こう答えたのだった。
「職業柄、仕種や表情で自分に好意を持っている人は分かるものなんですよ♪」
(携帯)
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