■19492 / ResNo.29) |
君が教えてくれるもの 22
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□投稿者/ 槇 一般♪(9回)-(2007/07/17(Tue) 03:01:33)
| 久しぶりに、学校へ行った。 用を済ませて、帰ろうとしていたらグランドが見渡せるベンチに成瀬がひとりで座っていた。グランドではサッカー部が練習をしていた。 夕方のこの時間、少し気温が下がって過ごしやすくなっていた。練習の声を聞きながら本を読むのが好きだと昔、成瀬から聞いたことがあった。
「成瀬」
本に夢中になっていた成瀬は驚いたように顔を上げて、声の主が私だとわかると穏やかに笑った。 いつから、成瀬はこんなに柔らかく笑えるようになったんだろう。
「山本さん、久しぶりですね」
あの夜から私たちは会ってなかった。私がずっと学校を休んでいたから…
「うん、ずっと休んでたからね。色々やることあって。」 「いい加減にしとかないとまた留年しますよって来た」 「教務?なんで?」
目の前の練習を見つめながら言った。
「退学届をね…出してきた。」
空が赤くなってきていた
「大学…辞めるん…ですか?なんで…?」
私はまっすぐに成瀬を見た。
「私、強くなりたいのよ。あんたみたいに。いつのまにか追い抜かれちゃってんだもん」 「全然、強くないですよ!!山本さんの方がずっと強い!私はいっつも助けられて…」 「私は弱いくせにそれを認めたくなくて、強がってただけ。でも、あんたはほんとに強くなったよ」
私は未だに自分の気持ちを伝えることさえ、できていないんだから…
「辞めて、どうするんですか?」 「うん、世界一周一人旅!全然知らない土地をひとりで旅してたら、頑固な私もさすがに強くなるでしょ。ああ、でも、頑固だから一周では足りないかもしれないな」 「……」
成瀬は何も言わず、俯いて聞いていた。
「逃げようって思ってるんじゃないんだよ?私は自分を変えたいの。色んなものを見て、色んな人たちに会って、そこで生活して、いろんなことを感じて…。私は変わりたいの…。世界の果てまで行ったら、なにか見つけられるかもしれない…。それが何なのかはわからないけど…」 「大学を…辞めてまで…しなきゃいけないことですか?休学にしたらいいじゃないですか…」
そうかもしれない… 私は人生を棒に振ろうとしているのかもしれない…
「逃げ道を作っておきたくないの。ここにやることがあれば、それを理由に逃げて帰ってきてしまう…。一番辛い時、それでもどうしても一歩踏み出さなければいけないときに、進めなくなってしまう…。今までがそうだったから…」 「どれくらい行くつもりなんです?もう帰ってこないつもりなんですか?」 「わかんないな…。そんなこといってすぐ帰ってきちゃうかも知れないし、どっかの国でそのまま暮らすかもしれないし…。ひょっとしたら、どっかのスラム街とかで死んじゃったりしてね」
自分の無計画さにはじめて気が付いて思わず笑ってしまった。 でも成瀬は、全然笑わなかった。
「今日会えてよかった。色んな事の整理ついたらすぐ行くつもりだったから、最後に顔見たいなって思ってた」 「いつ出発ですか?見送り行きますよ」 「教えない」 「え…?」 「絶対こなくていいから!」
私は断固として言った。
「……」 「見送り来られると、行きたくなくなっちゃうから…自分で決めたことでもね…」 「ねっ」と、成瀬の顔を覗き込んだ。
「……行きたくなくなるなら……」 「え?」
顔をあげて、まっすぐに私を見据える
「行きたくなくなるなら、行かなきゃいいじゃないですか!」
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